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転生リバース

「いつかは北の地を平定し、地球に帰りたいからな」


 俺たち地球出身者の最終目的。

それは鍛錬を重ねていつか北極穴へ赴き、最北の島レインドの何処かに記されているという、反魂の法を探し出すことだ。

 魂を他の身体に移すのが移魂の法なら、反魂の法は離れてしまった魂を元の身体に戻し、復活させるものらしい。

 つまり俺たちは、反魂法によって転生前の状態で地球世界に戻れるかもしれないのだ。

 故に転生した俺たちは、まず半年間の教習でこの世界の言語などを覚え習慣に親しむ。

 その後は切拓者として活動し、這い出る異形どもと戦いながら腕を磨き、北を目指していくのだ。

 北極穴へ辿り着く為、俺は自分の命をアッシュという男に賭けたのだ。


「家族に会いたいなあ。その為に、お前たちには頑張ってもらわないとだな」


 杯から口を離し、しみじみと呟くドルムン。

 ブータン出身であるドルムンは、既婚者で幼い子供も地球世界に残して居るらしい。

 同居しているうちに、彼が家族想いの父親であるということが分かった。


「いや、お前も頑張れよ」


 そして牧歌的でおおらかな奴であるということも。


「もちろん俺も努力はするさ。だが、何かの縁で同じ部屋に住むこととなった同居人に夢を預けたっていいだろう?」


 おまけに年下の俺にも気さくに接してくれる人の良さも持ち合わせている、 


「俺みたいな奴に大切な夢を託していいのかよ?」


 心の内で褒め過ぎたせいか、気恥ずかしくなってきた。


「そう言われると、嫌だな!」


 二杯目の葡萄酒を飲み干したドルムンが、満面の笑みで言い放つ。

 持ち上げといてしっかり落とすところが、なんともこの男らしい。


「おい」


 俺は笑いながらドルムンの杯を指で弾いて抗議しておく。


「まあまあ、飲もうではないか」


 今度は手酌で自分の杯に葡萄酒を注ぐドルムンを見つつ、俺はちびりと酒を飲む。


「よく飲む奴だな、まったく」


 威勢よく杯を傾け中の液体を口に流し込むドルムンをちらりと見ながら、俺は卓の上に置きっぱなしにしていた読みかけの本を手に取る。

 本の名は、第一世代転生者であるレッテンバックが記した魔法組成式の基礎理論。

 この世界、アストレリア特有のものである魔法やプラーナについて、基礎的な理論や用語が書かれている本だ。転生者目線で記述してあるので、分かり易くて気に入っている。 

 その証拠に、何度も読みこみ手垢のついた本には、いくつもの付箋が舌を出している。


「お、勉強の時間か?」

「ああ。せっかち、というより死に急ぐ相棒と付き合う為には、今以上に俺も魔法の腕を磨かないとな」


 予想のつかないアッシュを補助する為には、臨機応変に魔法を使いこなすことが重要だ。その為にはまず、なるべく短い発動時間で魔法を行使できることが望ましい 

 魔法を紡ぐというのは、頭の中に絵を描くようなものであり、高位の魔法ほど複雑で難しい絵を精緻な筆致で脳内に描かなければならない。

 よって高位よりは低位の魔法の方が短時間で紡ぐことが可能だ。

 現状の俺に必要なのは後者であり、低位な魔法をさらに短い時間で紡ぐ為に研鑽しなければならないと感じている。そのために、まずは本を読んで組成式を紡ぐ手順や方法を見直していくか。

 個人によって魔法を行使する感覚は異なるため、万人に向けの正しい道筋というのが存在しないのが辛いところだが、やりがいはある。

 付箋を頼りに紙を捲ると、駆け出しの切拓者がまず覚えるべき基礎魔法とその組成式例が列挙してある箇所が開いた。

 ――――まずはここからだな。

 幾つかの魔法に目星を付ける。これらの術を磨いて速攻、とまではいかなくても今までよりも素早く発動できるようにしよう。


「うんうん、若い奴は何事にも熱心でないとな」


 本に目を落としていく俺に、向かい合う友人がしみじみ呟く。


「爺臭いな。ドルムンもそこまで俺と歳が離れているわけでもないだろう?」


 俺は本から目を離さずに言葉を返す。


「さあな。転生した身体だと年齢が曖昧になるから、そこらへんが麻痺してくるな」


 ドルムンの言うとおり、俺たちの身体自体はアストレリア人のものであるため、外見と中身の年齢がずれていることも多い。


「不思議なものだな、転生するっていうのは」


 奇跡という他に無い体験をした俺は、今でもたまに夢でも見ている気分になる。


「せっかく拾った命だ。謳歌しないと損だぞ。――――なんちって」


 酔いが回ってきたのか、ドルムンのおせっかいさが顔を出し始める。が、自分でも今のは少し説教くさかったと自覚したのか、すぐに冗談めかした言い方で煙に巻いた。


「はは、ご忠告ありがとう」


 俺は大人の気遣いと気配りの出来る友人を尊敬しつつ、礼を述べる。  

 それ以降、読み物に集中し始めた俺を慮ったのか。ドルムンは話しかけて来なかった。


「んじゃ、俺は寝るとするかね」


 夜もとっぷり暮れてきた頃、ドルムンが伸びをしてから席を立ちあがった。


「ああ、おやすみ」俺は顔を挙げて応える。

「身体だけは壊すなよ」


 そう言い残し、友人は奥の部屋にある二段寝台の上段へと昇って行った。

 俺は卓の上に吊るしてある、魔石を加工して作った魔石燈のつまみを捻り、光量を下げる。

 すると、部屋全体を照らすほどに眩しかった灯りが、仄かに輝く程度となる。

 俺たちの世界にある電燈を、アストレリアで再現したら魔石燈となったらしい。


「さて、もうひと頑張りするか」


 俺は本を閉じ、組成式の一部を改変して魔法を脳内に組み上げていく。


「駄目か」組み上げていた式が途中で綻び、消えてしまう。


 簡略化を図ろうと試みた結果あえなく失敗してしまった。


「ならこれならどうだ」


 その後も別の工夫を試み幾度となく失敗したが、日付が変わるまで何度も挑戦を続けた。誰に言われたわけではないが、あの相棒に喰らいついていく為には、自己の努力が必要不可欠なのだ。


「ふむ」


 数々の失敗を経て、僅かだがこつを掴めた気がする。低位魔法の幾つかは、今までよりも僅かではあるが素早く発動できるかもしれない。

 あとは実戦の緊張状態で使えるかどうかだ。


「よし、風呂入って寝るか」


 ある程度満足いく結果が得られたところで、俺も休むことにする。

 今日も一日、大変だった。が、一方ではで地球世界に居た時にはない充実感があった。


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