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招かれた強襲者

 酒場から出た俺は深まった闇夜の中、下弦の淡い月灯りのみに照らされている路を歩いていた。 


「⁉」


 何の前触れもなく謬と夜を斬り裂いて俺の元へ飛来する銀の煌めき。


「っつ」


 それが何者かによる不意打ちだと気付くと同時に、肩口に痛みが奔る。視線を己の肩へ向けると、短刀が刺さっており、血が流れ出していた。

 来た! 俺は動揺することなく右手で鞘から剣を抜き、左手で腰に差したステッキを握る。

 強襲者の正体は、おそらく新人殺し。ドルムンの次の標的は無防備だった俺にしたらしい。

 捜しても正体がまるで掴めない犯人を見つけられる気がしなかった俺は、一つの策として隙を作り、自らを囮として網を張っていたのだ。

 ドルムンより実力者であるといわれる若手など、そんなに数は多くない。だから俺は賭けに出たのだ。

 ここ最近、毎晩一人で酒場に赴き、人気のない路を通って家まで帰るという行動を繰り返していたのは、犯人を誘い出すためのものだった。

 俺がドルムンよりも世間では腕の立つ切拓者であると認識されていたし、かつ若手でもあるということが、この作戦を実行する根拠となった。

 結果は見事に作戦成功。あとは新人殺しを捕まえることが出来れば万々歳だが……

 そこまで甘い相手ではなさそうだ。俺は目を凝らして新人殺しの姿を捜す。

 夜の世界を何者かが蠢いているのはわかるが、視界にはっきりとは映らない。

 おそらく何らかの方法で闇に紛れているのだろう。


「ちっ」


 姿の見えない相手に舌打ちし倒れは、投げ短刀の的にならないように走りながら魔法を紡いでいく。

 俺が石畳を駆け出すと。連動して真後ろから足音が響いてきた。音によって、視えなくても近くにいることが分かった。


「っつ」


 背中に痛み。

 新人殺しは走りながらも、俺の背中に向けて短刀を投げつけたらしい。

 が、無理な体制からの投擲だったせいか背中の痛みはそれほどではない。

俺は踏ん張って急停止しながら、肩越しからステッキの先端を後方に向け、相手を見ずに光魔法白光輝玉(ルール―)を背面発射。白光球が弾けると、前を向いている俺の視界にも光が届く。


「ぐうあっ」


 閃光弾の如き《白光輝玉》を背面に向けて撃ちだすことで、術者の俺には無害でありながらも、後ろから追ってくる相手の目を眩ませるという狙いの一手は、どうやら上手く決まったらしい。俺は相手の様子を確認するべく反転して構える。 

 すると闇に溶け込んでいた新人殺しの姿が、おぼろげながら浮かびあがっていた。 


「卑怯な手を使う奴め。許さないぞ!」


 黒い外套に身を包んだ新人殺し。顔は目元以外が隠されているのでよく分からないが、背丈は俺とほぼ変わらないくらい。

 左右に順手と逆手でそれぞれ短刀を持ち、目をこすりながら俺に向かって憎悪を吐き出した。


「はん、お前みたいな奴に卑怯者だとか言わ」


 俺は敢えて言葉を言い終える前に、高速で紡いでいた《白光輝玉》を正面に向けて発射。同時に目を瞑って自分の視界を遮断しておく。

 なんであろうが、殺人者に卑怯者呼ばわりされる筋合いはない。

 魔法の連続発動により鈍い痛みが俺の頭に広がっていく。こらえろ。


「ぐ! 狡賢い悪者め、許さないぞ!」


 どうやら不意打ちの魔法も上手く当たってくれたらしい。

 九件もの犯行を手がかりも残さずに成し遂げた新人殺しは、もう少し冷静で賢いと思っていたのだが、そうでもなさそうだ。

 目を瞑った新人殺しが、地を這うような低い姿勢で、大蛇の如く俺へと突っ込んできた。  

 が、いくらなんでもそれは無謀に過ぎるだろう。

 俺は視界ゼロの状態で闇雲な突進を選択した新人殺しに対応すべく、新たな魔法を準備。


「なっ⁉」 


 が、黒い外套をはためかせ俺に向かって突き進んでいた新人殺しの姿が、突如闇の中へと消えてしまった。驚いた俺は咄嗟に腕を交差して急所である顔を防御。

「うぐ」


 すると腹部に焼けるような痛み。短刀が俺の腹に突き刺さっていた。

「くらえ! 赤炎球撃(アグニム)!」


 不意を衝かれた俺は、苦し紛れのハッタリで、紡いでもいない攻撃魔法の名前を声高らかに叫ぶ――――頼む、引っ掛かってくれ。

 このまま押し込まれたら危ういと察した俺は、祈りながら自らも後ろに飛び退き、距離を取りつつ今度は本当に魔法を紡いでいく。

 すると幸いなことに、新人殺しは追い討ちを仕掛けてこなかった。どうやら俺の嘘にまんまと騙されたらしい。


「お前、嘘をついてまた僕を騙したなあ!」


 激昂し、大声をあげる新人殺し。せっかく姿を隠しているのに、音で自らの位置を示してくれた。手強いがどこか抜けている奴でよかった。

 おそらく新人殺しは、黒い外套と術技を併用することで姿を隠している。

 姿が薄ら視えたり、完全に視えなくなったりするのがその証拠だ。

 外套の特殊能力だけで姿を隠せるのならば、隠遁能力が安定しているはずだ。

 だが新人殺しはそうではなかった。故に俺にもやりようはある、   


「ごめんごめん。興奮して思わず嘘をついてしまった。でもこ」


 またもや俺は言葉の途中に魔法を割り込ませる。

 ステッキの先を大声のした方向に向け、まだ準備の終えていない火系魔法赤炎球撃(アグニム)を無理やり放つ。


「れで嘘じゃなくなっただろう?」


 直径一メーテル程の火の玉が闇夜を照らしながら進んでいく。

 が、未完成のまま無茶して放った魔法は、新人殺しに着弾することなく、途中で粒子となって虚空へと消えていった。


「くそっ!」


 姿を現し、悔しがる新人殺し。


「馬鹿野郎よりは卑怯者の方がいくらかましだな」


 俺は嘲るように笑って新人殺しを挑発してやる。


「おまえっ!」


 怒った新人殺しが再び姿を消して俺へと突っ込んでくる。

 ――狙い通り、新人殺しが安い挑発に乗っかってくれた。


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