本音吐露
「恐ろしいよ」
俺は迷うこともなくすぐに言葉を返す。
たとえ見栄を張って自分の気が強い所を彼女に主張したところで、すぐに看破されてしまうと思ったので正直に答える。
「でもエッジさんは、若手で一番の実力者と言われるほどの切拓者ですよね?」
怖がりである俺が、周囲から実力者だと認められている不思議に対し、ファニアが疑問を浮かべる。
「それは……認めたくはないがアッシュのおかげだろうな。あいつの無茶に巻き込まれ続けていくうちに、気が付けば周りの見る目が変わっていたというだけだ。俺自身は地球世界に居た頃と変わらない、臆病者のままだよ」
つまり俺は、アッシュと組んでいるおかげで周りから評価されているに過ぎない。
悪く言えばあいつの尻馬に乗っかっているようなものだ。
「でも、アッシュさんのような奇矯な人と組んでいるというだけで、すごいことなのではないですか?」
持ち前の無邪気さを発揮し、臆面もなくファニアは俺に質問投げ続ける。
確かに彼女言うとおり、俺以外の人間は酔狂の極みともいえるアッシュと組んで、無駄に命を危険に晒すことを避けていた。だが、俺は敢えてあいつの傍にいる道を選んだ。
「自分が弱くて脆い人間だと自覚しているからこそ、あるいみ異形どもよりも怪物じみているアッシュと組み、奴の近くに身を置いているのかもしれないな」
俺は自己を分析し、思ったことをそのまま吐露していく。
「何せアッシュのようないかれた人間と組んでいれば、臆病さや精神的な脆さが顔を出す暇さえないからな」
邪気のないファニアが相手だからか、恥ずかしげもなく素直に言葉が出てくるのだろう。
「なるほどです。エッジさんは自身が駄目人間だと自覚しているからこそ、敢えて厳しい環境に身を置き、自分を戒めているのですね」
「まあ、そんなところだな」身も蓋もない言い方だが、概ね彼女の言うとおりだった。
「納得しました。人間ってどうしても周りの環境に影響を受けてしまいますものね」
うんうんと頷くファニア。よく分からないが彼女は俺の言葉に深く共感しているようだった。
「ふふ。それにしても、さっきからアッシュさん、酷い言われようですね」
いたずらっぽく笑うファニア。
「俺たちがなんと言おうが、あいつは気にしないさ。それよりもこの話、アッシュには内緒にしてくれるかな?」
アッシュという人間は浮世離れし過ぎていて、人間社会における愚痴や悪口など歯牙にもかけない。と分かっていても、この話をあいつにはして欲しくない。
「別に隠すことでもないじゃないですか。ひょっとして照れ臭いのですか?」
俺の言葉を聞いたファニアが首を傾げ疑問を口にする。
「いや、単純にあいつだけには弱みを見せたくないんだ」
相棒という存在であるからこそ、不必要な弱さをアッシュには知られたくない。
「なにそれ? やっぱり男同士って面倒臭いですね。でも逆に、そういう関係ってちょっと憧れるかもです」
俺とアッシュの面倒な関係性の一端に触れたファニアは、興味津々といった様子だった。
「ファニア、俺とあいつの間柄を羨ましがるのだけはやめてくれ。反吐がでそうになる」
わざとらしくげんなりした顔を彼女に向け、懇願しておく。
「ふふ、思わぬところでエッジさんの弱みを握ってしまいました。やはり此処に来て正解でしたかね」
どこか芝居がかった声でファニアが言葉を返す。
「ファニアって意外と油断ならない女だな。こわいこわい」
嘯く俺に、ファニアが謎の笑みで応じる。その笑顔はほんとにちょっと怖い。
「さてと、満足したので私はそろそろ帰りますね。これ以上はお邪魔になりそうですし」
話に区切りがつくと、ファニアが席を立ちあがった。
「ありがとう」
感謝の言葉が自然と口から出る。彼女のおかげでだいぶ気が落ち着いた。
「いえいえ、ではまたですね!」小さく手を振ると、ファニアは去って行った。
「さて、俺は作業に戻らないとな」
ファニアのおかげで、興奮して肉食動物のように狭まっていた視野が、鎮静化してだいぶ広くなったような気がする。
思い詰めることも悪いことではないが、そのせいで見落としが出てしまうのは良くない。
俺は新たな気持ちで、もう一度最初から資料に目を通していくことにした。