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犯人捜索

「で、これからどうするつもりだ?」

「まずは協会へ行って情報を集めよう」


 俺たちは新人殺しについて調べる為に、地球出身者の相互扶助を目的とした、転生者協会へと向かった。

 前回のようなおざなりな調べ方ではなく、今度は本気で事件の詳細を把握するのだ。


「新人殺しの事件被害者九人について詳しく聞きたいのだが……」 


 被害者が新人・若手であるということ以外にも何か共通点があるかもしれないと思い、新人殺し事件の担当受付に詳細を聞いてみることにする。

 受付女から被害者一人一人について説明を聞いていく。


「……犯人像が絞れないな。アッシュは何かに気付いたか?」


 だが、メモをとる俺は性別も生前の国籍もばらばらな被害者たちに何かしらの共通点が見いだせなかった。 


「未熟者ばかり狙う新人殺しの姿や思想がまったく理解できない。よって私に犯人像を想像することは不可能だという事実に気が付いた」

「ちなみに俺は、出来ないということをここまで偉そうにのたまうアッシュのことが理解出来ない」


 俺の言葉を聞いた相棒が満足そうに笑って頷く。アッシュとしても。俺如きに自分のことを理解してほしくないのだろう。気持ちは分かるが腹立たしい。


「結局は犯人が新人や若手を狙うということしか分からないのが現状か。それなら今度は、なぜ新人若手しか狙わないのかを考えてみるか」


 俺は顎に手を当てながら、横に居る相棒に向かって考えを述べる。


「臆病ものだからだろう」


 するとアッシュは間を置かずに即答。


「そうだな。だが、新人殺しは臆病者のくせに連続殺人というリスクを侵している。標的を格下の相手に絞ったとしても返り討ちに合う可能性はゼロではないし、第三者に目撃されることだってあるかもしれない。それにもかかわらず、なぜ新人殺しは連続して殺人を行っている?」


 九回もの殺人を重ねる中で、相応の危険はあったはず。


「それらの危険があったとしても、人を殺さずにはいられなくなったのでは?」


 同じ結論に至ったアッシュに、俺はゆっくりと頷き同意を示す。

 危険を承知の上で、犯人は己の欲求を満たそうとしているのだ。 

 だがそうなると、今度はさらなる疑問が沸いて出る。


「なぜだと思う?」


 臆病者、言い換えれば慎重ともとれる犯人がどうして多大なるリスクをとってまで我欲を満たそうとするのか? 

連続殺人者の考えなど俺にも分からないが、想像してみる価値はあるかもしれない。


「ふん、私に聞くな」


 鼻を鳴らしてそっぽを向くアッシュ。

 弱者ばかりを標的にする人間の気持ちなど、自分の与り知るところではないと言いたいのだろう。


「人を殺すことによって、身の周りの生活や社会などの不満や鬱憤を晴らしているのかもな」


 想像、というより妄想に近い意見だが、他に理由が思い浮かばない。 


「なぜ殺人行為が社会という一体制への不満解消に繋がるのだ? 気にくわないというのならば、革命を起こすのが筋だと思うのだが?」


 アッシュが顔をしかめ、俺の言っていることがさっぱり分からないと疑問を口にする。


「俺に聞くな」


 俺の方こそ、革命を起こすのが筋と言ってのけるアッシュの思考回路がさっぱり分からない。


「……ふむ。このままでは埒が明かないな。ここはひとつ、私なりの方法で調べてみることにしよう。エッジはエッジで勝手にしろ」


 何拍か沈黙が続いた後、思案顔のアッシュが何かを思いついたらしく顔を上げて言った。


「ああ、二手に分かれた方が良さそうだな。俺も一旦宿舎に戻るから、何かあったら連絡してくれ」 


 何もかもが正反対な俺とアッシュ。だからこそ、時には一緒に行動するよりもそれぞれに調べた方が、違った着眼点で捜査が出来て良いかもしれない。


「では、さらばだ」


 思い立ったアッシュが颯爽と去って行った。


「……ひとまず帰るか」


 俺は新人殺しの起こした事件資料を受け取った後、宿舎に戻ってもう一度じっくり考えてみることにした。協会を出て真っ直ぐ宿舎へと向かう。

 煉瓦造りの大きな建物の横を歩いていると、宿舎の前で人だかりを発見。


「ん」


 密度の高い人の群れの視線は皆、壁面に張り付けられた白い幕に注がれていた。

 生前、地球世界の映画館で目にした映写幕だ。

 どうやら、これから何かがスクリーンに映し出されるらしい。


「何が始まるんだ?」


 俺は同じ宿舎に寝泊まりしている仲間に尋ねる。


「これから轍の代表者であるサリーヌさんのインタビューが放映されるらしい」

「へえ」


 意外な名前が出たことに内心で驚きつつ、平静を装っておく。

 人垣の間に設置されている映写機に埋め込まれた魔石が光ると、白いスクリーンに向かって光が放たれる

 すると古めかしい映画のような、粗い白黒の映像がスクリーンに映し出されていった。


『こんにちは、本日はご多忙の中お時間をとっていただき誠にありがとうございます』

『いえいえ。私としてもこうして考えを発言出来る場を与えてもらって感謝しています』 


 記者による社交辞令の挨拶に対し、サリーヌがにこやかに応える。

 実際に会うと胡散臭さに溢れていたが、映像で見るサリーヌは育ちの良い淑女に見えた。

 外面の良い奴だ。


「サリーヌさんって美人だよな」


 事実、隣に立つ転生者は見事に騙されていた。

 しかし会ったことが無ければ俺も騙されていただろう。そう考えると恐ろしくなる。


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