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受け入れ難い事実

「エッジ、大変だ!」


 騒々しい声で目が醒めた。


「何だよ。喧しいな」


 俺は瞼をこすりながら、突然やって来た隣人に非難の声をあげる。


「ドルムンが死体で見つかった!」

「は?」


 突拍子の無い言葉に思考が止まる。

 何かの間違いではないのか? 疑問が頭を駆け巡っていく。


「警察士は新人殺しの仕業だろうと判断しているらしい」


 戸惑う俺に対し、隣人が言葉を継ぎ足していく。


「新人殺しだと?」


 聞き覚えのある名前を耳にし、心が波立っていく。 

 居ても立ってもいられず、俺は部屋を飛び出していった。


           ◆

 新天地での生活に胸を膨らませていた彼だったが、待っていたのは退屈な教習だった。

 (なぜ転生してまで授業を受けないといけないんだよ。面倒くさいな)

 アストレリア語の授業を受けながら、彼は心の内で毒づいた。

 言葉が通じなければ、今後の生活が不便だということは自分でも理解はしている。 

 故に、本心では仕方のないことだとも思っている。

 (どうせなら初めから言葉を覚えた状態で転生させてくれよ。ついでに超強いスキルとかタレントも、予め与えておいてくれよ)

 だから彼は不満を口には出さず、心の中にぶちまけることで発散させていた。

 このつまらない半年間の教習が終われば、楽しい未来が待っているはず。

 そう思うことで、彼は苦痛の日々を耐えていた。


「君、どこの出身?」

「日本、です」


 彼は常に一人で居ることを選んでいたが、同じ時期に転生した地球出身者から話し掛けられることもあった。

 生前の苦い経験から、人と接することに恐怖があった彼。だが同じ境遇の転生者たちは、そんな彼に気さくに声を掛けた。

 転生者たちには見知らぬ地で一緒にやっていこうという仲間意識があったし、単純に心細くもあったのだ。


「よろしくね」


 彼は久しく見ていなかった自分に対する笑顔を目にした。


「はい」


 荒涼としていた心に、人の温かみが沁み込んでいく。

 彼は恐る恐る、差し出された手を握る。

「よろしくお願いします」

 繋がった手は、想像していたよりも温かかった。

 

 教習も中盤に入ると、語学だけでなく切拓者として活動する為の実技訓練が始まった。

 期限内に切拓者として最低限の活動をできるようにする、という目的の訓練はそれなりに厳しかった。

 彼は何度も挫けそうになったが、ぎりぎりのところで堪えることが出来た。


「大丈夫かい?」


 手を差し伸べてくれる仲間がいたからだ。


「は、はい」


 走り疲れ倒れてしまった彼に、優しく声をかける同期。

 苦難を共に分かち合うことで、彼の荒んでいた心は徐々に解きほぐされていき、心の内に文句を吐き出すことも少なくなっていた。


 かくして半年が過ぎ去り、彼は特に仲の良かった仲間たちと一緒にパーティを組むこととなった。

 訓練では並以下の成績だった自分だが、本番ではきっとやれる!

 己を叱咤し、彼は仲間たちと初めての冒険に出る。


「気楽に行こう」

「さすがに初陣でそれは無理だって」

「はは」


 気の良い仲間たちが緊張しつつも、場を和ませようと談笑しながら歩いている。

 彼も仲間たちと同じように笑い、すっかり溶け込んでいた。


「いたぞ、子鬼だ」


 戦闘を歩く切拓者の足が止まり、仲間に注意を促す。

 ついに異形共と戦うことになった彼の鼓動が跳ね上がる。 


「俺たちならやれる。そうだろう?」


 仲間を纏める人柄の一人が声を発すると、彼を含めた他三人も「ああ」「もちろん」「うん」と声を発する。

 異界の地にて、彼は初めて命を懸けた戦いを経験することとなったのだった。

               ◇

 部屋から出た俺は、一目散に警察士の詰める警察署へ向かって走った。


「なんでだ」


 せっかく酒を買って待っていたのに。

 一昨日まで普通に話して一緒に酒を飲んでいたじゃないか?

 俺はドルムンと話すのが好きだった。おどけるあいつを見るのが好きだった。

 あいつとくだらない話をする日常が、こうも簡単に崩れてしまうのか?

 一度は死という運命から逃れた俺たち転生者だが、二度目は無い。

 もし死んでしまった場合、俺たちはこの異世界で生涯を終えることとなる。

 故に、死ぬわけにはいかない。いかないのだ。

 ドルムンは地球世界に戻って家族に会いたがっていた。

 もしあいつが死ぬのならば、家族に囲まれ惜しまれつつ逝くべきだ。

 アストレリアという異世界で殺人者に殺されることなどあってはならない。

 ドルムンのような善い男が、理不尽に亡くなることなど絶対に間違っている。

 俺は激情に飲み込まれつつも、目的地へ到着した。  


「ドルムンは?」


 警察暑につくやいなや、受付の女の元へ向っていき声をかける。


「エッジ、落ち着け」


 いきなり現れた荒い息遣いの俺に、受付の女が目をしろくろさせていると背後から声が。


「アッシュ。なぜお前が此処に?」予想外の顔に当然の疑問が沸く。

「お前の同居人が新人殺しにやられたと聞いたのでな。詳しい事情を聴きとりにきたのだ」


 俺に代わって事実を確認しようと、アッシュは受付の女に視線を送る。


「転生者ドルムン氏は、昨晩死亡が確認されました」

 

 促された受付の女が恐る恐る口を開いていく。  


「人違いじゃないのか⁉」


 ドルムンの名前が出た瞬間、頭に血が上ってしまった俺が大きな声で受け付けの女にがぶり寄る、


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