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相談には酒がつきもの

 あの特攻野郎のせいで、俺が頭を悩ませなければならないという世の不条理さに、思わず抗議の声が漏れる。離れていても俺に迷惑をかけてくる相棒に辟易だ。

 が、一方であいつと組んでいるからこそ、サリーヌのような有名人からも注目される存在となっていることも事実。

 白状すると、俺は常軌を逸した精神を持つアッシュと一緒に居ることで、自らも特別な人間になりたいと思っている部分がある。

 凡人たる俺はアッシュという特別な人間の隣に居ることで、格別な恩恵を受けようとしているのだ。

それがここまで命懸けになるとは思わなかったが……

 認めたくないが、俺はアッシュに依存している。 

 だからあいつと組んだままで、俺はこれからもやっていくしかない。

 見限られないように、あの男に必死に食らいついていくしかないのだ。


「駄目だ、どうしたら良いのか分からない」


 努力しなければならないのは理解しているが、何に向かって励めばいいのかが分からない。 

 多少、魔法の発動が早くなった所で限界は見えているし、劇的に何かが変わるとも思えない。ではどうすればいい? 頭を捻って考えてみるも、一向に答えが出てこない。


「ドルムン、やはり俺も一杯飲んでいいか?」


 一人で悩んで埒が明かないのなら、誰かに聞いてみるしかない。


「そうこなくっちゃな」


 待っていたとばかりに、ドルムンが杯を掲げにっこりと笑う。 

 性悪女に騙され、相棒のせいで悩まされと散々な一日だったが、最後に友人の笑顔が水に、ではなく酒に流してくれた。


「で、エッジはどんな愉快な悩みを俺に相談してくれるのかな?」

「実は――――」


 俺はベッドの上で考えていた、器用貧乏な自身の今後についてどうしたものかと悩んでいるということを

ドルムンに伝えた。 


「はっは。エッジ、お前は一つ重大な勘違いをしているぞ」


 俺の悩みを吹き飛ばすように、口を大きく開けて呵呵大笑するドルムン。


「勘違い?」


 俺は予期せぬ友人の言葉に疑問を浮かべる。


「分からないか? それならまず俺から見たエッジという切拓者が、どんな奴なのか教えてやろう」


 意味ありげに笑ったドルムンが杯を卓に置く。


「お前は一人で数多くの魔法を使うことが出来る。さらに剣技だってそれなり。たいした野郎じゃないか。少なくとも俺は、同期でお前ほどに何でもこなしちまう奴を見たことが無いぞ」


 他者から言われ、質はともかく手数の多さが賞賛に値するものだという事実に気が付く。

 破滅を呼び込むアッシュと組んで死闘を繰り広げる日々の中で、俺は死にもの狂いで魔法を会得していった。剣の腕も実戦で強制的に磨かれていった。

 死にかけの日々で得たものは、自分で思っていたよりも大きかったらしい。


「なんでも出来るようで、たいしたことは何一つ出来ないというのが俺の悩みなのだけどな」


 俺は葡萄酒の入った杯を口につけ、思ったことを吐き出す。


「現状に不満があるからこそ、まだまだお前は成長出来るんじゃないか?」


 ドルムンが笑顔を湛えたまま、俺の愚痴を受け止め言葉を返してくる。


「確かに、一理あるな」


 上昇志向がなければそもそも悩んだりしない。

 不満や悩みがあるからこそ、改善すればより良くなっていく。

 現状に満足したならば、歩みが止まり、成長も止まってしまう。


「だが、このままだと遠くないうちに壁に当たる気がするんだ」


 スールーのような超級の切拓者を目にしたからこそ分かる、遥かなる高み。

 あそこに登り詰める為には、一つの道を究めることこそが必要なのではないだろうか?

 少なくとも、達人とはそういうものだという認識が俺の中にはある。


「大丈夫だ。なんでも出来ちまうお前なら、立ちはだかる壁だってきっとどうにかしちまうさ」


 ドルムンは、俺と言う切拓者を随分と高く評価してくれているようだ。


「買い被り過ぎだ」


 友人の贔屓目で過大に評価しているのだと思う。


「ああ、俺はお前の腕と将来性をかっている。だから頑張れ。俺の分までな」


 そんな俺の想いを察したのか、ドルムンが冗談めかして俺を激励する。

「いや、お前も頑張れよ」


 ふざけた友人の態度に、反射的に言葉が出てしまう。


「「ぷははっ」」


 後には二人の笑い声が重なる。真面目に相談していたのがあほらしくなってきた。


「お前のその悩みは、あった方が良い類の悩みだ。我慢して抱えておけ」


 笑い終わると、ドルムンが年上らしい言葉で締めた。


「分かったよ」


 俺はドルムンの言葉を、上から目線の物言いだと感じたものの、すんなり受け入れた。

 友人の気さくな人柄のせいだろう。


「ドルムン、ありがとうな」


 杯を掲げ前に出すと、ドルムンも俺に合わせて同じ動きをする。


「礼はいいから乾杯しようぜ」


 二つの杯が重なると、子気味の良い音が鳴る。同時に心が軽くなった。

 酒の味が美味いとは感じないが、友人と語らいながら飲む酒の席は悪くないものだ。

 

「起きろ、私に付いてこい」


 聞きなれた不快な声で深い眠りから醒めた。


「なんのつもりだ、アッシュ」


 上半を起こし、重たい瞼をこすっていると、おぼろげだった腕を組んで立つアッシュの輪郭が徐々にはっきりしていく。


「光栄に思え。朝の鍛錬に付き合わせてやる」


 相棒が口の端を吊り上げ笑うと、俺の腕を掴んで引っ張り上げて強引にベッドから降ろす。 


「迷惑でしかない」


 抗議の声をあげつつ、俺はしぶしぶ寝間着から動き易い戦闘着へと着替えていく。


「知ったことか。むしろあほ面で寝ているエッジがさっさと起きてこなかったという状況に、私の方が迷惑していたのだぞ」


 それこそ俺の知ったことではない。  


「アッシュ。生きていること自体が俺への迷惑行為だということにそろそろ気付け」


 相棒の安らかな眠りを妨げるアッシュは、実は俺にとっては子鬼よりも厄介な敵なのかもしれない。


「安心しろ。たとえ死んだとしても、お前にだけは迷惑をかけるつもりだ」


 胸を叩いて得意げな顔するアッシュ。なんというはた迷惑な決意。この相棒だけは本当にどうにもならないな。


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