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相棒という名の難敵

 白い光の玉がアッシュ目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。

 相棒の身体に白光球が着弾。同時に玉が弾け、目も眩む鮮烈な光が猛烈な勢いで辺りに広がっていく。


「ギシャアアッ!」


 眩い光に目を灼かれた子鬼たちが苦悶の声を挙げる。


「ぬんっ!」

 

 俺の掛け声により予め目を瞑っていたアッシュがかっと目を見開き、視界を奪われ錯乱する子鬼に手刀を叩き込む。

 すると衝撃と痛みにより、子鬼は手に持っていた棍棒を子鬼が取り落してしまう。

アッシュはすかさず地に落ちた棍棒を拾い、目の前の子鬼を容赦なく殴打殴打殴打。

 気が付けば子鬼は崩れ落ち、間もなくして身体が粒子となってこの世界から消えていった。

 だが残る一匹の子鬼は、盲目状態になりつつも必死にアッシュの背中にしがみついていた。


「さて、根競べといこうか!」


 アッシュは頭を右へ傾けたかと思うと、勢いよく逆に振る。

 子鬼の前頭部とアッシュの側頭部が激突。耳を塞ぎたくなるような鈍い音が俺の元まで届く。

 アッシュが首を振る度に側頭部が子鬼に叩きつけられ、鈍い音が断続的に鳴り響く。

 頭蓋どうしがぶつかる、痛々しい音を聞いているだけで俺は鳥肌がたってきた。


「ギギギ」


 先に我慢の限界を超えた子鬼が、ついにアッシュの背中から剥がれ落ちていく。

 緩慢な動きで立ち上がろうとする子鬼に対し、相棒は手に持った棍棒を振るわけでもなく、


「貴様に新たな技を教えてもらった。感謝する!」


 口を大きく開けて子鬼の緑色の肌に噛み付いた。


「正気かよ」


 真珠色の歯が子鬼の首筋につきたてられ食い込んでいく。

 悪鬼の形相となったアッシュは、子鬼にやられた噛み付きをそのままやり返していた。


「ギイイイイイイツ!」


 断末魔の声を挙げ朽ち果てていく子鬼。

 恐ろしいことに、相棒の戦鬼は子鬼を噛み殺してしまった。もはやどちらが鬼だか分からないな。

 今俺の眼前で行われたのは、品の欠片もない怪物同士の野蛮な戦いだった。

 それにも係らず、子鬼の青い血を口から滴らせるアッシュの姿に血生臭ささはなく、獅子が生きる為の狩りを終えた後のような、荘厳な神聖さがある。

 悔しいが、異形の青い血すらも、アッシュを彩る装飾となっていた。


「ギイイイイッ!」


 俺がアッシュの姿に目を奪われていると、相棒の正拳突きをまともに受け、倒れていた短剣子鬼がのろのろと立ち上がる。

 子鬼の目には瞋恚の炎が宿っている。仲間を殺されたことに怒っているのだろう。

 這い出る異形の一種である子鬼といえども、仲間を想う気持ちは人間と同じようにあるらしい。


「その状態でなお敵に挑もうとは、見上げた精神だな。私もお前のようにありたいものだ」


 対するアッシュは、尊敬の眼差しを目の前の子鬼に向けていた。


「いいから止めを刺せ!」


 よもや倒すべき敵を敬愛するとは思わなかった。変人だとは思っていたが、ここまでとは。 


「それに比べて後方から魔法を放っただけのエッジは軟弱に過ぎるな」


 俺の声に反応したアッシュが、今度は嘲るような目で俺を見つめてくる。

 仲間と敵に向ける感情が間違っていないか?


「良いことを思いついた。傍観者を決め込もうとするエッジには、この子鬼が持つ不屈の精神を学んでもらおう」


 何かを愉快なことでも閃いたらしいアッシュが口元を歪める。

 何を言っているのだ、こいつは?


「な⁉」


 意味が分からずに呆然としていると、何を思ったのか突然アッシュが俺の方へ駆けだしてきた。

 すると当然、怒りに燃える子鬼もその後を追って来る。


「喜べエッジ、お前はこの子鬼と戦うことで精神的に強くなれるぞ! きっとな」


 叫びながら俺の後ろへ回り込むアッシュ。勝手な思い込みで、これほど人に迷惑をかけられるのは、もはや才能だろう。はた迷惑な才能だ。


「くそったれ!」


 子鬼の視線が俺と交わり、標的が仲間を殺したアッシュから、殺すきっかけを作った俺へと移ったと察知。


「ギッ!」


 短剣を構えた子鬼がじりじりと距離を詰めてくる。


「ちっ」


 俺は舌打ちしつつ、左手に持つ短杖を投げ捨て、右手で剣帯から剣を抜き放ち構える。

 前衛で身体を張るアッシュとは違い、俺の役目はあくまで後衛。

 後方からの魔法で味方の補助や援護をし、時には魔法で敵を薙ぎ払うのが役割だったはず。

 だがその役割に徹することはいつも叶わず、相棒のせいで結局は前線で戦うはめになってしまう。

 子鬼の短剣と俺の剣の切っ先が向き合う。


「訓練と思えばちょうどいいだろう? しっかり見届けてやるから、精々頑張って殺すか殺されるかしろ」

「一言多いんだよっ!」


 アッシュに怒りの声をぶつけると共に、俺は右手に握る剣を突き出す。

 後ろに飛び退いた子鬼が、着地と同時に今度は前へと突進してきた。


「くっ!」


 俺は横に飛んで子鬼の突進突きを回避し、袈裟に斬りこむ。

 が、子鬼は身体を逸らしてなんなく斬撃を回避。

 連動し、今度は子鬼が短剣を繰り出してくる。も、俺は剣の鍔でなんとか防御。

 金属がかち合うと、甲高い音が辺りに響き渡った。

 素早い奴だ。俺の剣技だと苦戦は免れない相手かもしれない。

 ――――が、こんな戦いはすぐに終わらせてやる!

 攻めに転じた子鬼が短剣を突き出して再び突っ込んでくる。そこへ俺は、剣ではなく素手の左手を突きだした。

 そして拳を開き、手のひらを子鬼へ見せつけると同時に、対峙した直後から紡いでいた()光輝(ール)()を発動。

 魔法を効率的に発動させる道具である短杖なしでの魔法行使なので、先ほどより効力はだいぶ落ちる。が、それも相手の眼前で使えば問題はない。何より、この状態ならば近くにいる俺への被害が軽微で済むのが良い。

 子鬼に向けられた俺の手の平から光が広がっていく。


「ギギャアッ!」


 悲鳴を挙げ、子鬼は手足をばたつかせる。

 目の前にいきなり眩い光が生まれ、子鬼には防ぐ術がなかった。

 俺はせっかく作り出した隙を逃さないよう、すかさず子鬼の胸に向かって剣を突き入れる。

 身体ごと叩きつけるように突くと、肉を突き破る感触が手に残った。

 まもなくして動きを止めた子鬼は、死体になることなく、粒子となって空中に漂い、間もなく消えて行った。

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