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三本の矢と的

 俺は力が抜け、座り込みそうになってしまう。

 再三に渡る魔法の連続使用で頭の中が疲れ果ててしまったのだ。


「エッジ君。私は君のような可愛い顔をした男性が嫌いではないよ」

 未だに、盲目状態となっているサリーヌがふと会話に割って入る。

 お気遣いはありがたいが、その状態で容姿を褒められても説得力がまるで無いのだが……


「さて二人共、身の程を知りましたか?」


 スールーが首を傾げて微笑む。


「ああ」


 かつてない強敵との邂逅で、若手で一番だと自負していた俺のささやかな自信は打ち砕かれた。 

 だが、一線級の実力者と戦えた経験は貴重だ。俺たちとの実力差は大きいが、だからこそ目指し甲斐があるというものだ。


「そんなもの、知ったことか。だが、スールーという目標は出来たことには礼を言っておく。この借りはいずれ熨斗を付けて返してやる」


 立ち上がったアッシュがスールーと対峙し、言い放つ。

 瞳の中にある闘志の炎はよりいっそう燃え盛り、握られた拳には力が込められていた。  

 圧倒的な存在を目の前にしても揺るがないその心は、厄介な時も多いがやはり頼もしい。

 実力はともかく、精神的にならばアッシュはスールーにも負けていないと俺は思っている。


「二人揃うと尚良いですね。サリーヌが目をつけるのも納得というものです」


 スールーが俺とアッシュを交互に見やり、笑みを深くした。


「そうだろう。私は人を見る目だけはあるつもりだからね」


 未だに視力が回復していないのか、瞼を閉じたままのサリーヌが自慢気に言葉を返す。

 その状態でサリーヌに言われても、やはり信ぴょう性が皆無だった……

 会話を重ねていると、いつの間にか鉄火場の剣呑な空気は霧散していた。


「むふふ。顔が好みのアッシュ君と、性格が好みのエッジ君。どちらか選び難いですねえ」


 笑顔というよりは、だらしないにやけ顔で俺たちを見つめるスールー。


「今気が付いたのだが、この女、少し変だな」


 アッシュがぼそりと呟く。


「ああ」


 珍しく俺と相棒の意見が一致。

 先ほどまで凛々しかったスールーの顔はほんのり朱に染まり、目尻が下がっていた。

 だらしなく緩んだ顔は、妄想に耽っているように見えた。


「どうやら色々な意味でスールーに気に入られたようだね。おめでとう」


 疑問を浮かべる俺たちを余所に、サリーヌが一人で喝采を送る。


「お、名案が浮かびました。二人同時に抱いてしまえば大解決です」


 かと思えば、スールーが悩んでいたスールーがふと口を開く。

 なんなのだ、いつらは?


「アッシュといいスールーといい、強者というのはみんな頭がおかしいのか?」

「あんなのと私を一緒にするな」


 俺が話しかけると、アッシュは嫌そうな顔をし、そっぽを向いた。


「そこにサリーヌが加われば、三対一。わお、よりどりみどりの四人プレイですねえ」


 そして放っておくと、スールーの妄想の翼がはためき、さらなる高みへと飛翔していく。

 飛んだ先は、俺の想像の彼方。


「ほほう。確か日本の逸話に三本の矢というものがあったが、スールーが今言ったこともそれに倣っているのかな?」


 スールーの言葉に反応し、サリーヌが言葉を紡ぐ。

 サリーヌが今言った話は、矢は一本では簡単に折れるが、三本束ねると簡単には折れなくなる。という結束の重要性を説いた逸話のことだろう。

 曲解も甚だしい。


「断じて違う!」


 俺は多くの同胞の為に速攻で否定しておく。


「確かに、その例え方は根本的に間違っているな」


 俺の言葉を継いでアッシュが口を開く。

 普段は碌な発言をしないこの相棒も、稀によいことを言う。少しだけ見直した。


「スールーの話を推察すると、この場合の矢とは、ち○この比喩だと考えるのが自然だろう。ならば矢というち○こは、私とエッジの二本分しか存在しないと思うのだが?」


 見直した俺が間違っていた。


「おお、言われてみればその通りだ。ならば三本の矢ではなく、この場合は二本の矢と二つの的と表現するのが正しいかな?」


 まるで正しくない。


「私は矢が何本あろうと、的がいくつあろうともかまいませんよ。その全てを捌いてあげましょう」


 俺の方はこの変人三人を捌けそうにない。神がいるなら裁いてくれ。


「さて、刺激的なこの会話をもっと愉しみたいところだが、時間もないのでそろそろ本題に入るとしよう」


 視力の回復したサリーヌが目を開き前へと出る。


「そのどうでもよさそうな本題とやらを聞くことも、あんたの依頼に含まれているのか?」


 俺は騙された腹いせに嫌味を投げつける。 


「ふふ。依頼には含まれてはいないが、君たちにとって良い話かもしれないよ?」


 薄く笑い、サリーヌが首を傾げる。

 そう言われてしまうと聞かざるをえない。と、俺が思うことを見越しているかのような、あざとい笑みだった。 


「駆け引きは苦手なので率直に言おう。エッジ君にアッシュ君、私が長を務める組織、(ワダチ)に入るつもりはないかな?」

「は?」


 予想外の言葉に驚くほかない。


「天下に名高い轍が、なぜ若手である私たちを勧誘する?」


 驚愕に目を見開く俺の横で、戦いの時以外はわりと冷静なアッシュがいつもと変わらなぬ声音で疑問を投げかけた。


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