レイモンド グレイ
ついにこの時がやってきてしまった。
現在僕は王立魔術学園の食堂でとても緊張している。
僕の記憶によると今日は断罪イベントの日なのである。
昼食を取りに来た妹をヒロインと攻略キャラたちが断罪し、セラフィーナは不幸な未来をたどることになるのだ。
この先の展開に愁いていると、ヒロインが男をぞろぞろ引き連れて食堂に入って来た。
「セラフィーナさん、酷い。エドワードが私を好きになってしまったからと言って、階段から突き落とすことないでしょう。一昨日の放課後15時頃、北校舎よ!」
ヒロインが泣きながらセラフィーナに迫るが、妹はキョトンとしていてあまり理解していない。
かわいい。
「エドワード様が欲しいのですか。正式な手順を取っていただければ差し上げます。」
セラフィーナも少しは動揺しているのか、殿下にとても失礼なことを言っている。
「何を言っているのだセラフィーナ。俺は認めないからな。」
殿下は何故か焦っており、慌てて妹を窘めた。
「打ち所が悪ければ死んでいたかもしれないのよ。そんな殺人未遂犯をエドワードは庇うの?その女はあなたには似合わないわ。その子と婚約破棄してよ。」
ヒロインの提案に対して彼女の周りにいる宰相の孫を筆頭とした逆ハーレム集団が肯定の意を示し、野次を飛ばし始めた。
騒ぎは食堂全体に広がり、嫌な空気だ。
乙女ゲームの世界の矯正力なのか、周囲はヒロインの味方が多い。
「私はそんなことしていませんわ。証拠はありますの?」
冷静さを取り戻した妹が、とても理にかなったことを言った。
しかし、それが気に入らなかったのか、ヒロインは癇癪を起し始めた。
「私があなただって言うの。証拠は私よ!」
地団太を踏みながら喚くヒロインに周囲の人間の多くが賛同している。
被害者が証人というのがおかしいことに何故気付かない。
僕はこの日のために3か月もヒロインの動向に警戒し、一生懸命尾行を続けてきたのだ。
コミュニケーション能力は低いが今頑張らなくていつ頑張る。
僕は意を決して発言した。
「あなたが北校舎の北階段、2階と3階の間の踊り場から1人で転がり落ちるところを僕は見ました。」
「先生はセラフィーナさんのお兄さんなんでしょ。あなたの妹はひどいことをしたの。妹だからって庇う必要はないわ!」
僕の発言はヒロインの一言であっさりと握りつぶされてしまった。
これはマズイ。どうしよう。
18年間の努力のおかげで、国外追放されても妹を養っていくことはできるけど、それは最終手段なのだ。
「私は、グレイ先生が一昨日の放課後15時少し前に北校舎の2階、北階段付近にいたことを目撃しています。」
本格的に絶望しだした僕に救いの手を差し伸べてくれる天使様が現れた。
真っ赤な長い髪で背が高く、凛々しくてかっこいい容姿は天使らしくないが、僕からしてみれば誰よりも輝く天使様だ。
「あっあなたは、自分によって来る女なら誰でも庇う尻軽でしょ。信用できないわ!」
天使様ことローゼリーンの証言も、今のこの狂った空間においては意味をなさないらしい。
「私、ローゼリーン様が一昨日の放課後14時58分に北校舎の2階南階段付近にいるのを見ています。」
「加害者の証言なんて信用できるはずないでしょ!」
ヒロインは勿論セラフィーナの証言に文句を付けて来る。
「俺は、一昨日の放課後15時過ぎに、南校舎3階のバルコニーから身を乗り出すセラフィーナと、その視線の先にいるローゼリーンを見たぞ。ちなみに俺は中庭に居た。しかも、俺はセラフィーナと婚約破棄する気はない。人の話を聞け。」
「何でみんなしてそんな女庇うのよっ!私がこの世界の正義なのよ。主人公だもん。」
泣きわめくヒロインは尚も駄々をこね続けていたが、さすがにエドワード殿下の発言に苦言を呈することができる者もおらず、この茶番劇は幕を閉じた。
意味不明なので図をのせます。