ローゼリーン スカーレット
休暇前から、私の後をちょこちょこついて回り、こっそりと影からのぞき見して来る侯爵令嬢のセラフィーナはもちろんかわいい。
しかも、エドワードの婚約者であいつがベタ惚れしているというのもポイントが高い。
当のセラフィーナは全くあいつに興味がないというのも面白い。
エドワードをからかういいネタになる。
だが、私は最近それにも勝るかわいい生物を見つけてしまったのだ。
その生物は今年からこの学園で魔術の講師として赴任して来たセラフィーナの兄上の『賢者様』である。
『賢者様』は革新的な発想で魔術界に影響を与え続ける魔術の天才であり、18歳にして既に近代史に仲間入りをしている規格外な人物なのだ。
学園への入学を免除され、つい先月まではグレイ侯爵邸で魔術の研究をしていた。
身体が弱いらしく、社交界でも超レアキャラ。
『グレイ侯爵家の妖精』と囁かれている容姿が綺麗なことは予測していたのだが、まさかこんなに私の好みのど真ん中だったとは、まさにドストライクだ。
妹のセラフィーナは太陽のように明るく、可愛らしい。
輝くブロンドの髪はふわふわで天真爛漫という言葉が似合う人形のような少女だ。
たいしてレイモンドは月のように静かに周りを照らす、儚い美しさが魅力的なのだ。
銀色の長いまつ毛に縁どられた目が伏せられた時など鼻血が出るかと思った。
今にもこの世から消えてしまうのではないか、と思わせるあの現実味のない美貌は罪だ。
そんな、『賢者様』ことレイモンドは最近、エドワードの引っ付き虫である男爵令嬢をこっそりと付け回っている。
巧妙に魔術をかけているが、私の目はごまかせない。
いつも心配そうに転入生の少女を観察しているのだ。
エドワード狙いであることは明らかなのに、あいつの周りの人間と終始いちゃついているあの女のどこがいいのだろうか。
「エドワードが可哀想だから、あなたは戦うのをやめて。女の子でしょう?」
その上、私のところまで訳の分からない話をしに来たくせに、貴族としての礼儀の基本もなっていない。
あの女ならば、女らしさの欠片もない私でも勝負になるかもしれないことが唯一感謝できることだ。
国中を探しても、私より年頃の女性にモテて、私より強い男がいないことをやっと認めた父は私の婚約者探しを放棄した。
もう平民だろうが誰でもいいから結婚相手を見つけろ、とこの間呆れられたばかりである。
レイモンドなら家的にも全く問題がない、私は意地でもレイモンドを落としてみせるぞ。