お題小説【タイムマシン】【入潮】【弾雨】
今回も企画に参加させていただきました。
宜しくお願い致します。
ずっとずっと、天から降るそれは消えなくて。私の手を握ってくるこの幼い子供は、日の光を直接浴びたことが無い。数十年前には当たり前だった太陽が、まさか伝記上のものになろうとは思いもしなかった。もしもタイムマシンがあったならこの子を過去に連れて行って、自分が少女だった頃この身いっぱいに浴びていた陽の光を、温もりを感じさせてあげたい。でも現実にそんな空想上の科学はなくて、もしも人間にそんな技術があるくらいなら、そもそもこの悲しい現状はとっくに打開されていただろう。外の世界に砲煙弾雨が止まなくなって早七十年。もうその始まりがどんな正義だったのか覚えている者も居ない。見つめた先、この洞穴の開口部は昼間だというのにどす黒く煙っており、その中を流れ落ちる幾千もの星々が不規則に線を引く。
「お祖母ちゃん、もう時間だよ」
くいくいと小さな手が私のカーディガンの裾を引っ張った。気づけばもう、水が足首まで上がってきていて入潮を知る。弾雨に背を向け大小の長靴をちゃぷちゃぷ言わせて、私たちは手を繋いで元来た道を戻り始めた。歩を進めるほど闇に吸い込まれて行き、あっという間に孫の顔は能面になる。人工的な照明が等間隔に並んでいるが、それらの灯りはほんの気持ち程度。二、三十年前まではもう少し光量があったのだが、貯蓄されている資源も残り少なくなり、今では必要最低限の公光しか確保されなくなった。
「泣いているの?」
手をぎゅっと握られて驚く。私にはもうその輪郭すら曖昧な小さな人影は、真っ直ぐにこちらを向いている。どうやらその新しい瞳は、はっきりとこの世界を写しているようだった。
もしかしたらこの子には、太陽に代わる新しい光が見えているのかもしれない。
閲覧ありがとうございました。