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ペンダント

「で?どこに行くつもりだよ」

一は裕太に問いかけた。

2人は今、一の自宅近くの商店街を歩いていた。

この商店街は一の祖父が子供の頃に始まったという、長い歴史を持つ商店街だった。

そのため、老舗の和菓子屋や染め物屋、肉屋や魚屋など、昔ながらの商店が数多くあった。

また、近頃は商店街の人々が昔のような活気を取り戻そうと、若い人が好むような店を誘致していったため、カラオケや雑貨屋などの店も軒を連ねていた。

「んー、今日はクラスの“マドンナ”の誕生日プレゼントを買いに行こうかな~と思ってさ」

裕太はやけににやけていた。

クラスのマドンナ。もう少しで誕生日。そして裕太がにやけている。

ここまで条件が揃って、一が思い当たる人物は一人しかいない。

吉井薫。一の初恋の相手にして、あえなく玉砕した相手だ。

玉砕、といっても直接ふられたわけではない。

薫は少し前、バスケットボール部のキャプテンと付き合っているというような噂を流されていた。

一は根拠のないその噂を鵜呑みにし、一人で勝手に落ち込んでいたのだった。

「あのなユウ!薫ちゃんのことはもう諦めたって言っただろ!」

一は声を荒げた。

「え?誰が薫ちゃんのプレゼントを買うなんて言ったよ?」

裕太が更ににやけた。

やられた。一はいつも裕太にからかわればかりだった。

「いや、だってクラスのマドンナに・・ってほらあの・・」

一は顔を真っ赤に染めながら必死に弁解していた。

「ほぅら、やっぱりまだ諦めてないんだろ?」

なんでこいつはこんなに嬉しそうなんだ・・そう思いながら一は「う、うるさい!」

と顔を背けた。

裕太は相変わらずニヤニヤしていた。

「でも女の子へのプレゼントなんてどこで買うつもりだよ?」

一も裕太も、女子へのプレゼントなど買ったこともなかった。

「やっぱり女の子って小物とかお菓子とか好きなんじゃないかと思ってさ~」

そういいつつ裕太は足を止めた。

そこにはオシャレな雑貨屋があった。窓から中を覗くと、かわいらしい小物や雑貨が細々と並べられていた。

雰囲気はかなり良かった。

ただ、問題はドアにかけられた看板だ。そこには“close”とあった。

「しまってんじゃん」

一は裕太を白い目で見つめた。

「あちゃー、どうするかな・・」

どうやら裕太は店が閉まっていた場合のことを全く考えていないようだった。

裕太はいつもそうだ。自分から色々と行動を起こす割に、先のことを考えていない。

だから一が代案を出す。これもいつものことだった。

「まあこの辺りをぶらついてたら、雑貨屋くらい見つかるんじゃない?」

「そうだな、そうしよう!」

2人はまた歩き始めた。

そして大きな橋の下に、一軒の雑貨屋を発見した。

雰囲気は申し分ない。あとは値段だが、まあそこはなんとかなるだろう。

そこにたどり着くまでにもいくつかの雑貨屋はあったのだが、どれもやけに女の子っぽかったり品物が高価だったりと、入りにくかったので、そのままさまよい続けていた。

「もうここでいいか」

2人はその店に入っていった。

店の中はお香が焚かれているのか、とてもいい香りがした。

手近な商品を手に取って値札をみてみると、そこまで高価でもなかった。

「いい感じじゃん!」

と裕太は上機嫌だった。そして奇妙なカエルの人形のようなものを触って遊びだした。

「誘ったのは誰だよ・・」

と独り言のように呟きながら、一はプレゼント探しを始めた。

「やあお兄さん方、今日は何をお探しかな?」

2人は驚いて飛び上がった。

どうやらこの店の店主らしい、老人が立っていた。

その老人は不思議な雰囲気を漂わせていた。

「こいつの彼女の誕生日プレゼントを買いに来たんです!」

と裕太がムダに元気よく答えた。

「なっ・・おいユウ!違います、でも女の子へのプレゼントっていうのは本当なんですけど・・」

一が店主にあたふたしながら説明すると、

「なるほどなるほど・・これなんかいかがかな?」

と、1つの商品を一に手渡してきた。

「き、きれい・・」

ペンダントだった。大きな石がはめ込まれていた。

その石は角度によって色が違ってみえた。

「でもこれ、高いんじゃ・・」

一はバイトをしていなかったので、小遣いは親からもらっていた。それもそんなに高額ではなかったので、買えるのか心配になった。

「まあ普通なら二万円程度だが・・」

「に、二万ですか・・」

残念ながら一の予算外だった。

「特別に一万までまけてやろう、半額だ」

老人はにっこりと笑いながらそう言った。

「いいんですか!?」

一万円ならなんとか買える!そう思って一はペンダントを握りしめた。

「ああ、もう客もほとんどこない。そろそろ店じまいだからな、閉店セールだ」

一は店主に一万円を手渡し、ペンダントをプレゼント用に包装してもらった。

そこまでしたところでようやく遊びあきたのか、裕太が出てきた。

「お?買えたのか」

裕太は中身が気になるようだった。

「ペンダントだよ」

一は嬉しそうに答えた。

「いいじゃん!薫ちゃん喜ぶぞ、きっと!」

裕太がそういうと、一は顔を曇らせた。

「でも薫ちゃんには、か、彼氏が・・」

一は悔しそうにそう言った。

「え!?お前まだそんな噂信じてんの?」

裕太は驚いたような顔をした。

「・・え?」

「あんなん嘘に決まってるだろ!まったくお前はアホか!」

裕太はやや呆れ気味だった。

一の表情が一気に明るくなる。

「本当!?やっぱりそうなんだ!」

一は昔から、疑うことを知らなかった。

そのせいでよく損もした。それでも、疑って誰かを傷つけるよりもマシだと思っていた。

「今のうちにしっかり青春しなさいね」

話をきいていた店主がいった。

「はい・・ありがとうございました!」

一はぺこりと頭を下げて店を出た。

「おじいちゃん、またね!」

裕太は元気よく手をふった。

「いつでもいらっしゃい」

店主の老人は優しく微笑んでいた。

その瞬間だった。爆音とともに、上空から巨大な何かが降ってきた。

ドーン!!!

「うわぁぁ!!!」

一と裕太は吹き飛ばされた。

ガレキが散乱している。あたり一帯が砂煙につつまれ、多くの人々があつまる。

なにがどうなったのか、一達はなにもわからなかった。

あとになって知ったことだが、この時、橋が崩落したのだそうだ。

「はぁはぁ・・は、はじめ・・」

裕太は砂煙の中一を目で探した。

そこで裕太の目は有り得ないものを捉えた。

巨大な、まるでブラックホールのような黒い穴だった。

たくさんのガレキが吸い込まれていく。

「なんだよあれ・・」

裕太はただ呆然と眺めることしか出来なかった。

「・・・っ!?」

ブラックホールにガレキが吸い込まれていく。その中に・・

「は、はじめ!!」

一は必死に地面に爪をたて、吸い込まれまいとしていた。

「今助ける!」

裕太はふらつく体を支えながらなんとか立ち上がった。

「だ、だめだ・・ユウまで・・吸い込まれちゃう・・」

一はこんな状況でも、自分より他人の心配をしていた。

そして、彼の手はついに、地面を離れた。

「はじめぇぇ!!!」

「ユウ・・これを・・死ぬなよ・・」

大穴は大量のガレキと一を吸い込んで消滅した。

「うわあああああ!!!!」

裕太は泣き叫んだ。

遠くから声がきこえる。救急隊員の人達だ。野次馬もいる。

でもそんなの関係なかった。

裕太はひたすら泣き続けた。

十何年もともに歩んできた、親友が、今目の前で、消えたのだ。

大穴のあとには、七色に光るペンダントが寂しく落ちていた。


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