齧りたい林檎
「ねぇ」
「……はい」
「私の事好きなんだよね?」
「…………はい」
「ここに書いてあること全部本心?」
「………………はい」
私の目の前に耳から首まで真っ赤な顔をした小さい男の子がいる。
男の子と言ったら失礼かな、同じ高校生だし。
でも私は高校3年生で、彼は高校1年生。
私から見て男の子と言っても過言じゃないよね?
それに同学年の男子でもガキっぽいなって思う事の方が多いし。
そう思うのは私の見た目とそれに関連してきた経験のせいかもしれない。
「ふぅん…………結構色々書いてくれたんだね?」
「は、はひ……」
部活が終わって運動した体を休めていた私の前に彼はやって来て手紙、ラブレターを差し出してきた。
直角に腰を曲げて両手で封筒に入れたラブレターを突き出す形で。
『金宮先輩!好きです!』と言いながら。
この小さい男の子が出したとは思えない声量だった。
ここは人通りも少なくて、だから私もよくここで休んだりするのに使ってたんだけど。
それでも人が全く通らわないわけじゃない。
告白と同時に出したラブレター。その時から彼の顔は林檎みたいに真っ赤だった。
今でもこうして話してる彼は真っ赤で、あんな台詞を大きな声で言うのはとても意外に思える。
「…………」
「…………」
ラブレターを開いて読みながら、横目に彼を見る。
うつむきがちに、それでも彼は私を気にしている。
少し震えているように見える。
顔は相変わらず真っ赤なままで、倒れないか心配なぐらいだ。
ああ、真剣なんだな。
彼は本気で私に愛の告白をしてくれてるんだ。
ラブレターは正直流し読み状態だ。
それよりも私は目の前で震えながらも恥ずかしさを殺して顔を真っ赤にしながら告白してきた男の子を見てそれを自覚できた。
「ねぇ、なんで私が好きなの?」
「え、そ、それはその……て、手紙にっ」
「君の言葉で聞きたい」
こう言うと嫌われるかもしれないけれど、私はモテる。
それと同時に敬遠されてる。
私の身長は182cm。もっと大きな女性もいるだろうけど、高3の女子高生としても十二分にでかいだろう。
そしてバレーの選手として期待されてる。
実績も積み上げて、大学もそのおかげでもう決まってる。
モテると先に言った通り、顔も大衆に好まれる形なんだろう。
だから告白もされてきたし、また反対にやっかまれたり、小さい時とは言っても身長は大きかったけれどいじめられもした。
私はそんな女で、彼はどうしてそんな女に告白をしてきたのだろうか?
彼が私を好きになるのは分からないでもない。けれど告白までする様なタイプには見えない。
彼は敬遠する方の人に見える。
だから、彼の口から直接それを聞きたい。
「ねぇ、なんで?」
「か、金宮先輩は美人で、綺麗で、え、ええと」
「ありがと。けどそれどっちも同じ意味だよ?」
「あ、ああ、じゃ、じゃなくて!」
「うん」
意地が悪い。
返す言葉もそうだが、きっと今の私の顔はにやけているような気がする。
クラスメイトや部活の仲間が見たら驚くかもしれない。
私も勿論笑ったり怒ったりもするが、それは大きかったり深いものではない。
抑制してると言っていいかもしれない。
今まで経験して育った私は円滑に社会で生きていく為に、特異と言っては大げさかもしれないがこの私を受け入れられやすくするようそう振る舞ってきた。
だからこの胸で蠢く感情と表情は久方ぶりに人前で出しているように感じる。
「ぼ、僕は金宮先輩を始めて見た時から綺麗だなって思って、それでまず一目惚れして……」
真っ赤な顔を俯けたまま言葉を続ける彼。
人によってはこの時点で駄目って言うのかもしれない。
「それから気付いたら目で追ってて、あ、いやそのす、ストーカーとかしてませんから!でも、気になってて!」
ここもまたペケって言われるかもしれない発言を繋げて。
「部活で頑張っててかっこいい所とか、キラキラしてて、それでまた好きになって……」
男の子としてはどうなんだろう、普通逆じゃないかな?
「僕じゃ分不相応だってずっと思ってたけど、それでも!好きだってずっと思ってたんです!」
ああ、これはもう。
「お願いします!僕と付き合ってください!」
最初に言ったように彼は小さい男の子。
私の身長は182cmの巨女。けれど彼の身長は目測で大体160cmに届いてるか、届いてないかぐらいかな。
今まで付き合ったことのある男も私より背が低かった。
届きそうな人や大きな人が告白してくれた事もあったけれど、違うと思って断った。
正直に言うと私は自分の好みとかがよく分からない。
付き合ったことがあるのは自分なりにこの人なら大丈夫かなと思った人ばかりだ。
だから、ここまで心が動かされてるのは初めてだ。
「土井君だっけ?」
「はい!」
「こんなに身長差あるのに私と付き合いたいの?」
「は……はい!」
「私、君が思ってるような女じゃないけど付き合いたいの?」
「え……?あ、は、はい!!」
「ふぅん……いいよ」
「あ、はい……え、いいんですか!?」
「いいよ、けど後で駄目って言わせないから」
「は?」
「今私も分かったんだけど、私意地が悪くていじめっ子だったみたい」
「それはええと、どういう……」
「私を教えてあげる。けど逃がさないから」
私の疑問と返答にびくびくしながら喜び戸惑う土井君。
こんなに私を突き動かしてくれる小さな男の子が私の好みだったのかもしれない。
真っ赤で林檎みたいだった彼の顔がまた赤くなる。
頬に手を当てたぐらいでこれじゃ、今からすることにはどんな反応をするのかな?
にやにやしながら私は唇を彼に近づけた。




