≪幕間≫Misapprehension girl
「……おい、おいっ!」
「……ん、んん……」
薄く眼を開くと、すぐ目の前にレックの顔があって、とっさに体を竦ませた。ぞわっ、と全身に鳥肌が立つ。とんだおおかみさんだ。戦闘で気を失ったあたしの体を貪ろうなんて、ん?
「何で起こしたのよ」
「あれ? 寝てただけ? 眠たかった? わりい」
「ん?」
なんか、噛みあわない。
「いやそんなことより、あの白女は?」
「すげえ呼び方だな。まあいいけど。あっちだよ」
そう言ってレックは親指を後ろの方へ向ける。確かにその方向には、先ほどあたしになんかしくさった敵がいた。ぶっ飛ばしてやろうか。そう思い立って立ち上がり、少女の元へ歩みを進める。
「え?」
驚いた。レックの二本の剣が背中から刺さっている。真っ白な服に大量の血液がでかでかとシミを作っていた。
「治療しなくていいの?」
大声で背後のレックに声をかけた――つもりだったが、回答はすぐそばから聞こえた。
「すげえ簡単な処置はしといた。剣は抜いちゃうと失血死しちゃいそうだからそのままにしてあるだけ」
「ああ、なるほど。結局節は曲がったのね」
「棘があるよ棘が。抜けよ」
「棘がなきゃ食べられてしまうのよ、美しい花は」
「え?」
「なによ」
「い、いや……」
……そりゃまあガラじゃないのは分かってるけど、そこまで戸惑わなくても。いや自分の感性疑うみたいな小首の傾げ方しなくていいから。さすがに少しショック。
「で、この子の処遇は? まだ未来ある若い芽を摘む気はないんでしょ?」
「まあな。ただ、場合によっては多少痛めつけて力関係を体に教え込むことになるかもな」
そう言って乾いた笑いを浮かべる。あたし同様、そんな真似ができるとは思っていないのだろう。あと、何する気だろう。おおかみさんだからなぁ。ん?
「何で寝てる間に襲わないの?」
「は?」
「は?」
やっぱり食い違う。すぐに、自分が一番変態的妄想にとらわれているのでは、と思い直す。顔が熱くなる。こんなあたしに誰がした。このおおかみさんだ。
「もしかして……?」
「な、なによっ」
声が上擦る。
「やっぱ熱あるっぽいな。戦闘の疲労か?」
「くぬっ!」
ゲボハアッ!
レックが、盛大に喀血した。なぜかレックが抗議の視線を送ってきた。
「天誅よ」
「ンな私的な天誅あってたまるかっ……!」