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overcome with vigor

「……ホントなんなの、お前?」

「あんたが説明もなしに変なことするからでしょ!」

「何もしてない。あとそろそろ俺が酔わない走り方を見つけてくれないかな?」

「今回はあんたも悪いから文句言っちゃダメ!」

「なんでだよ!」

 全面的にレアルスが悪いだろ!?

 また横抱きにされて運ばれていた。

 まあ、こうなってしまうとこの女は絶対に俺の言い分に耳を貸さないことは知ってる。不条理極まりないが、仕方ないとも思うので、優しさに満ち溢れた俺は許す。

 つもりでいた。

「カハッ……!」

 あの女、俺を投げやがった! 土に埋めるのもかなり問題アリアリのマシマシだが、木にぶつかって喀血するレベルって相当だぞ!? しかもどう考えたって木を狙って投げただろ!

 という文句が頭を去来するが、声が出ない。肺がひっ潰されているから。殺されるほど恨まれてたの? しかも完全冤罪だぞ。完全犯罪的な。どうやったって覆せないが厳然と存在する、という特徴が共通しています。


 十分ほどして、やっとまともに声を出せるようになった。

「結局、俺はあの時気を失ったわけか……」

 つい物思いに沈んでしまう。

「そうね、まさかあの程度で気絶すると思わな――」

「かったわけないだろどう考えてもあれは命を狙ってた」

「あら、ひどいことを言うわね」

「それをお前が言うのか、全部罪を俺になすりつけて自分の分まで俺に罰を与えやがって」

「今回はどう考えてもあたしの方に分があるでしょ」

「クソ、コイツ」

 ギロ、と睨まれて何も言えなくなる。悪態すらつかせねえとかあんたどこまで絶対君主なんだ。昔々の帝国の皇帝の血が保存されてたりするんだろうか。

「結局、前回は接触できそうでできなかったわけだが、どうお考えですかこのクソアマ」

「あたしはプロの冒険家なのだけど」

「そういうアマではない」

「じゃあどういう?」

「女性に対して使ブレちゃったじゃねえか! さっきもこんな感じで議題見失ってたよな!?」

 気付き、叫ぶ。

「はぁ、えーっと、何の話をしようとしてたんだっけか?」

「好きな女性歌手」

「ああそういえば。俺はフレッシュ・クイだから違うだろッ!」

 フレッシュ・クイーンいいですよ。あの五十代とは思えない声のハリツヤ。

「そうじゃなくて、ちゃんとお前は身勝手な行動を反省しているのかって話」

「じゃああなたは自分の取った思わせぶりな行動を反省しているの? 話はそれからよ」

「思わせぶり? なんのこっちゃ?」

「ハァ?」

 レアルスの頬に朱がさした。あら可愛い。でも怒ってるから半減だな。いや、可愛いことには可愛いけど敵意が俺に向けられてるから風流を好む余裕が失せ気味。他人を否定することでしか云々みたいな子なのだろうか、レアルスは。相手に怒ることで可愛い面を見せるみたいな。でも結局相手は可愛いとイマイチ思えないんだけど。誰も得しないから笑って可愛く見せようよ。

「まさか自覚してなかったとは……いや、でも……確かに自覚してたらあんな行動取れないか……?」

「何をぶつぶつ言ってるんですかー?」

「つまりあれだけのことをして……あたしは異性と思われてない?」

「な……!」

 I-se-i。

 誰が思うと思ってるんだこいつを女と、ウン僕が思ってるよ。でもそれとさっきのボディーブローにどんな関係が。いやそうではなく、こいつは自分の性を気にしている……? しかも、どちらかといえば女性であることに誇りを持っている……!?

「ふざけるなよ!? いい加減にしろ!」

「ファッ!?」

「ジョークは大概にしていい加減俺を怪我させかけたことを反省しろ!」

「は、はい!」

「声が小さい!」

「ハイッ!!」

「よろしい!」

 ……なんだこれ。いや自分が仕掛けたんだけど、それにしたって今のは何だよ。レアルスも訝しげな表情し始めちゃったじゃねえかよ。なんかいたたまれなくなってきた。

「はい、では進みます!」

「は、はい……」

「元気よく!」

「はい! ……うーん」


 いい加減場の空気が勢いで持たなくなってきた頃――俺はある音を捉えた。

 弾丸が風を切るような。

 俺は音のする方、右前方をにらみながら左腰の剣を抜き放った。居合さながらに、勢いを殺さず振りぬく。剣の軌道は、過たず淡く光る白い弾丸を水平に切り裂いた。小爆発とともに、俺には届かずそのきらめきが宙を舞う。ふと『きらめきシュート』という技名が思い浮かんだが、口には出さないで後方にステップ。

「さぁて、おでましだな」

「何か待望してたような口ぶりね」

「そ、そんなことはないぞォー?」

「いや、停戦にしろ撃破にしろ接触しなきゃいけなかったし、取り繕わなくていいんだけど。むしろなんで取り繕おうとしたのよ」

「そ、そーだな!」

「音量が無駄よ。絞って」

「すまん……」

 少し肩を小さくする。だが、もう軽口をたたく場面ではあるまい。ゆっくり息を吐く。

「……俺の後ろを頼む」

「了解」

 どこか踊るようにレアルスが、俺と背中合わせになる格好で後ろに立ったのを横目でとらえながら、耳をすませる。

 ――さっきの戦いで仕入れた、まだレアルスにも伝えていない情報をいまさら思いだす。敵は、転移したとき――

 シュッ……!

「なっ……」

「えっ……」

 ――姿を現した場所で空気を裂くような音を発することを、敵が俺たちの間に割り込んで現れる直前に。

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