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Things twist very.

「……おい、何だよこのデジャブ」

「大丈夫、今回は追っかけられてない。距離を取ってるだけ」

「じゃあもうちょっと抱えられてる側の気分に気を遣ってくれ」

 ぐらんぐらんと頭を振られながら、俺は悪態をついた。やばい、吐くかも。

「マジで降ろしてくれ、お前の服を汚す羽目にはなりたくない」

「え? ……う、うん」

 服には気を使ってるのか? 新たな一面だった。あと戦闘服にもファッションってあるのか。

 横抱きにされていた俺の安全な降ろし方がレアルスにはよくわからないらしい。前に降ろそうとして、そうすると頭が地面に衝突することに気付き、あえてそれをした。

 まいあっえー。

 土に埋まった。何とか頭を引き抜いて、レアルスに抗議の視線を向けた。鳴らない口笛でかわそうったって無駄だぞこの野郎。じゃなかった女郎。暴力はかっけーけどやられる側はキツイ。シェスのために祈ってから、レアルスに問いかける。

「結局俺はあの時に気を失ったわけか」

「そうね、免許持ち冒険者史上最弱の誰かさんはワンパンでダウンしてくれたわよ」

「あれはただのパンチじゃねえよ」

「そうでしょうね、ただのか弱い遠距離型戦士のパンチですもの」

「そういう意味じゃねえよ! あの女は、拳を魔法で強化したんだよ」

 初めてレアルスが驚いたような顔をする。

「でも、確かにそうね、魔法の限界なんてわからないもの」

「それな。思ったことがあるんだが、怒らずに聞いてくれよ」

「その前置きがある時点で怒らずにはいられないだろうけど、何?」

「俺たちは、倒すんじゃなくて奴と停戦協定を結ぶべきだ」

 パコーン!

「痛ァッ! 何すんだこの野郎ッ!」

「ガキみたいなこと言い出すからよ。負けたくない、でも勝てそうにない、だからお茶を濁す、そんなの六歳児のすることよ!」

「子供は純粋なんだぞ! 損得を理解して、損得のためにだけ動くんだぞ!」

 バコーン!

「どっかの腹黒社長か」

「やたら叩くなよ! 暴力に訴える方がよっぽどガキだろガキ!」

「暴力に訴えてるんじゃなくて暴力も使ってるだけよそんなことも分かんないのガキ!」

 ゼエゼエ、とお互い息を荒くする。

「とにかく、あの女とは絶対に停戦だ、命が助かるためにはな!」

「ロクに戦わずに停戦停戦って、どんだけ腰砕けなのよ!」

「腰は砕けてねえわアホ! それは腰ぬけだ!」

「今自分のことを腰抜けだって認めたわね! 語るに落ちたわね! 腋が甘いのよ! 蜜よりも!」

「なっ、そんなことっ、……いや! おまえが普段から馬鹿晒してるから俺の満ち溢れる優しさがお前に正しい言葉を教えてやろうと騒いだだけだ! あとロクに戦ってないことはない!」

「ずっと独断専行してあたしの足を引っ張ってただけじゃない!」

「んなわけある――」

 か、までは言えなかった。二回も気絶してレアルスに運ばれた気がしないではない。だが、勝ち誇ったような女の笑みはどうしても納得がいかないし不愉快だ。ここでいう女は普通名詞。

「フフン」

 表情まではまだ可愛いと思えないではないのに、口に出すと腹立たしさが五倍くらいに膨れ上がる。可愛さは一割減。

「やろぉ……」

 顔を背けて横目で睨む。と――

「伏せろッ!」

 茂みの向こうに、白い影を俺は見た。思い切りレアルスを押し倒して覆いかぶさる。「キャッ」という可愛らしい悲鳴は、直後爆音にかき消された。誰のだよ今の。だが、そんなことは今は関係ない。

 方角が予測できない。下手に動くのは得策ではない。気配を背中で探りながら、視線を水平方向に走らせる。

「……あの」

「どうした」

 レアルスの声に、聴覚の一部のベクトルを向ける。追撃の気配はまだない。

「何、する気?」

 さっきまでの威勢がどこかへ行ってしまっている。突然の攻撃に戸惑っているのか、あるいは焦っているのか。

「そりゃ、戦うんだろうよ」

 唾を呑む音。なんか、妙に側頭部が放射熱を受ける。何事かと思って熱源の方向へ眼をやると、レアルスが顔を真っ赤にして目を閉じていた。非常事態に何をやってるのか。半眼を作ってジッと睨んでいると、やっとレアルスがまぶたを持ち上げる。少し戸惑ったような表情と水分たっぷりの瞳がオプション。目が合った瞬間、小さく悲鳴をあげてまた視線をそらす。どっちかというと、黄色い悲鳴みたいな。

「動くぞ」

「え、あ、え?」

 ぎゅーっとまぶたを強く閉じるレアルスを半眼で睨みながら、俺は立ち上がった。状況を理解していないのか。

 人ひとり分の重みがなくなったことに気づいたらしく、レアルスが戸惑いがちに目を開く。

「ほら、さっさと動くぞ」

 キョトンとした表情で小首をかしげていたレアルスだったが、突然顔を真っ赤にして表情をゆっくりと憤怒に変えていく。意味わからんが、立ち上がらせてやろうと右手を差し出すと、左手でその甲を握る。なんだこいつ、と思いながらグイと引っ張り起こすと、少女の右腰に握られた拳が目に入った。

「ァ……――――――!」

 鳩尾から、ミシミシっていうおとがした――

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