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The board of magic

「くそっ、どうする?」

「打開策はあんたが考えなさいよ、こっちに話を振らないで」

「振ってない、独り言!」

「疑問形で言うな疑問形、で!」

 足裏が鋼鉄になった特注の靴で魔法の弾丸を蹴り飛ばしながら、レアルスが俺を詰る。ものすごくないがしろにされた気分。とはいえ文句を言えるだけの余裕はない。二振りの剣を振って順に二発の攻撃を弾く。その時だった。

 ちらりと木々の間に見えた、白い影。――今しかない、か――!?

「っ! 待って!」

 動きに気付いたレアルスの制止を振り払って突貫。考えるのよりは遮二無二突っ込むほうが楽しい。まあ剣の扱いに長けているというわけではないが。いわゆる下手の横好きみたいなものである。木の幹を紙一重でかわし、かけて俺は自分の目を疑った。

「へぶぅッ!?」

 木に激突したが、たいして痛くもない些細な傷など思考の埒外に追いやられる。

 消えた……?

 半分以上、それは事実だと確信しているが、それでも科学の世界に生きてきた俺は疑問符をつけずにいられない。

 古代にこの世界に根付いていた魔術信仰も、実態を伴うものではほとんどなかった。宗教の根拠とされるさまざまな聖典も、数多くの歴史書などと照らし合わせればでっち上げであることがすぐにわかってしまう。ときには、あらゆる文献が証明していると言わざるを得ない不可思議な現象もないではないが、それでも限度というものがある。これほど真っ向から科学を否定されるとは思わなかった。いや、思えない。

 虚空に消えたその空間を凝視しても、やはりその向こうの木々の連なりしか見えてはこない。取り乱しかけた心を落ち着けて、つい先ほどタックルをかました木の幹に背中をぴったりと寄せる。レアルスはまだ自分を狙う攻撃の対処に追われているようだった。つまり、奴は戦闘を離脱したわけではない。姿を消したわけではなく、高頻度で短距離のワープをしているらしい。それならば、四方八方からの攻撃の理由もつじつまが合う。同時に、科学を相手にしていないことも明白になった。今まで積み重ねてきた戦術が使えないわけである。軽く舌打ち。と同時に剣で白い砲弾を抹消。どうにかして敵の攻撃パターンを見抜きたい。それが、おそらく唯一の現状打開策。

「文明の利器に活躍してもらうか……レアルス、こっちで俺を守ってくれ」

「ずいぶんと不遜なことを言うわ、ねっ!」

「五十か、い! ほど攻撃の情報を入力したいだけだ、頼む!」

「待ってなさい、すぐ行く」

 足裏で弾丸を蹴り飛ばして、レアルスは一歩でこちらへ飛んできた。と思ったら回し蹴りの体勢。

「仲間割れしてる場合……か……?」

 どうやらそうではなく、俺に接近していた攻撃を弾いてくれたらしい。

「急ぎなさい」

「敵の攻撃速度次第だな」

 一撃目、右前方高所から。二撃目、直情から。三撃目、左後方地表近くから。四撃目、右後方地表近くから。五撃目、真左から――素早く画面に攻撃方向と間隔を入力。

「今ので五十撃目でしょっ?」

「まだ無理だ! あと五十!」

「また!?」

「わりーな」

「ほんと極悪、ねっ!」

「ホイ五十三撃目!」

 素早く情報をスマホに叩きこんでいく――

「まだ!?」

「たぶん行けるッ!」

 表計算ソフトの情報をそのまま、底面に時計のような目盛りが描かれた半球に反映させる。さらに攻撃間隔の情報を用いて攻撃タイミングの予測を弾きだし、アラームソフトに反映。五回連続で一致。

「攻撃間隔がそのまま距離に比例しているとすれば……」

 左前方、今の位置から十メートルほど先、地表から五メートルのあたりを見据える。そこからの攻撃が来るのは、十三秒後。それまでの攻撃回数は四回。ちょうどいまそのうちの一撃が到達。

「あと三回防いだら屈め!」

 言いながら尻ポケットに『魔法の板』をねじ込む。そして、地面に突き立てた剣を引き抜く。

「了解!……一っ!」

「右上方!」

「ハイッ!」

 ドンピシャの蹴りあげ。

「ほぼ真上!」

「ソイッ!」

 地面に手をつき攻撃を蹴り飛ばす。そしてすぐに腕で地面を押して体を宙に浮かせる。

「ナイスッ!」

 地面とレアルスの間をくぐりぬけて、地面を強く蹴り飛ばす。一世一代の大ジャンプだ。

 目を見開いてこちらを見ながら、指をそろえて大口径の弾丸を撃つ構えを取る白い少女。腕を、斬り落とす――ッ!

 が。

「ァグァ……ッ」

 貫くような痛みが、鳩尾を起点に迸った。激痛でパンクしそうな頭を、何とか建設的な方向へ振り向ける。

 まさか、弾丸が当たった? いや、まだ指先の弾丸は残ってる。変化しているのは左腕の位置。先ほどまで後ろにひかれていたのが、今はパンチでもしたように前へ。だが、そんなレベルじゃ。こんな激痛っ……。

「ぁ……」

 姿勢が前方に傾いて初めて見えた左拳は、白銀の光を今まさに失おうとしているところだった。油断が、科学がもたらした半端な平和が俺に植え付けた油断が生んだ事態だ。科学では、何もないところに何の前触れもなく装甲が現れたりはしない。まして、今のは装甲などではない。そんなものではなく、実態を持たない、防ぎようのない武器。――存在が、装備。

 俺はこの敵に絶対に勝てない。

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