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I think you know?

遅くなりました。サーセン。

「もういい。さすがに思い知ったろう、しばらく手出しはあるまい」

「二度目の仕切り直しだな」

 そう言って俺は、白女を一瞥する。魔法の束縛から解放され崩れ落ちた彼女は、俺と目があった途端に辛そうな表情を浮かべた。自業自得だ、そう心の中で呟きながら、前を見据えて地面に突き立てた剣を引き抜いた。まだ背中には氷のように冷たく焼けつく気配を感じているが、無理やり意識の埒外に追いやる。

 今度は、敵が先制した。ノーモーションで俺の足元に出現し、腕で足をからめ捕る。両足の自由を奪われて引き倒されるが、上体を素早く持ち上げて敵の頭を切り払う。だがその瞬間、頭頂部に激しい衝撃。意識が遠のきかける。その隙に俺のそばを離れた敵は遠間から三発の狙撃。かわす間もなく後頭部で爆発が発生、視界が一瞬黒く染まる。それでも何とか、その勢いを利用して上体を弾き上げ、立ち上がる。さらに追撃を仕掛ける真紅の銃弾の軌道を回し蹴りでそらして、そのまま体の向きを反転。肩幅より少し開いた両足で同時に地面を蹴り、敵めがけて自らを反撃の銃弾と変える。

 近間へと差し掛かりながら放つ連続の斬り払いはすべてかわされ、鳩尾めがけてカウンターの拳。体中の筋肉を総動員して重力に逆らい、相手の腕の二センチ上を滑るように通り抜けて激突。ブレーキのかけようがない高速ヘッドバッドに額が割れるのを自覚するが、相手のローブを握って諸共地面に突っ込む。宙返りの要領で俺は両足を地面につけ、ブリッジの格好になると素早く手を相手から離し上体を起こす。敵の頭を蹴って距離を取るが、頭部は鉄塊同然の超硬度になっていてダメージにはならない。動きを制限しない極薄プロテクトを一瞬で自在に付け替え可能というハンデに歯噛みする。

 突然目の前に敵が出現する。顔面の距離数センチ、という状況に頭が真っ白になりかけるが素早く横に体を投げ出す。と同時に、空気が爆発するような衝撃が敵から放たれる。放射状のエネルギーの流れが俺を巻き込み、壁まで叩きつけられる。硬質な破砕音が壁から放たれたものか体から放たれたものか咄嗟に判別がつかない。判別しきる前に身をかがめる。銃弾が先ほどまで俺の頭のあった辺りを蹂躙し、砂となった壁の一部分が俺の頭に降り注ぐ。軽く頭を左右に振ってから前に転がり、壁から距離を取って右方へ走る。

 追跡するように真紅の銃弾が俺の背後を穿っていく。俺を捉えきろうとどんどんその回転は加速、それに合わせてこちらも必死に速度を上げる。砂礫がふくらはぎにいくつか当たるが、その程度のダメージにひるむ余裕はない。

 半周したあたりで後方宙返り。背中に一発食らうが、直撃を避けた形で追いかけっこはお開き、今度はこちらが攻勢に転じる。上体を思い切って下げ、つんのめる力をも全身のエネルギーにすり替えて猛スピードで敵に突貫、敵の胸元を袈裟懸けに切り裂く。だが敵もさるもの、危ういところでまたも後方への運動エネルギーを生成、切っ先がローブをかすめるに留めるあたりに、一瞬素直に感心する。背後に現われるその瞬間には俺の脚がその顔面めがけて振るわれた。一連の動きはかなりの確率でそのパターンが読めてきている。一方向に大きな隙を偽れば、敵は必ずそこを真っ正直に突きにかかるのだ。魔法の力に胡坐をかいている分動物より与しやすい。

 頭部を側面から強く殴打されて吹っ飛ぶ敵に、気を緩めることなく追撃。着地の前に追いついて腹に思い切り踵落とし、地面方向へ九十度の強引な軌道修正だ。地表五センチからエネルギーを加えられて蹴鞠のように跳ねかえる敵の体を、もう一度タイミングを合わせた回し蹴りで横方向へ吹き飛ばす。さらに三連続のステップ、勢いを乗せた二本の剣による連続の突き。しかしここに来て敵の動きが再びキレを取り戻す。自らの体に錐揉みの回転を加え、直撃を回避する。獣のように四肢で着地した瞬間に姿を消した。

 直後、顎を勢い良く蹴りあげられる。天井付近、高さにして約六メートルまで弾き上げられ、直後自由落下。背中を反らして剣を持ち上げ、カマキリよろしく振り下ろす。風切り音が鳴るが、すでに俺の体は錐揉み状態へ移行している。右の剣の切っ先を軸に右回転。さらに体を小さく畳み、二秒でマックススピードに突入。ランダムなタイミングで接近する弾丸を左の剣で斬る。同時に重心移動で爆風を回転速度にすり替える。瞬間、うなじに軽い悪寒を感じて、再びわずかに重心移動、その場を離脱。敵の掌底が、先ほどまで俺の胸があったところを突く。

「もうそろそろお開きにしないか?」

 靴底でブレーキをかけ、完全に停止したところで俺はそう話しかけた。

「激しく腹立たしいが、俺らの実力は拮抗してる。このまんま削り合って、ミスの応酬で相討ちってのはお互い望まないはずだ」

「だが殺さなければならない。お互いに、相手を殺さなければならない事情がある。そうだろう?」

「ああ。だからここは『お互い発見することができなかった』ということにしないか? 見て見ぬふりは、人類最大の武器だ」

「嫌な言い方をするものだな。だが、確かにそれが最も穏便だ」

 ところで、と、今度は相手が話題を仕切り直すように姿勢を軟化させる。

「戦争するに当たっては当然中の当然だが、『和平交渉は優位に立たねば切り出せない』という鉄則は――」

 突然、視界が塞がれる。激しい圧迫感が総身を包み、体を動かすどころか呼吸もままならない。鉄臭さが口や鼻の穴を覆い尽くし、こらえようもなく胃液が口に溢れ返る。体中を、ぬるぬるとした冷たさが包み込む。

「――知らないわけじゃないだろう?」

 そのくぐもったバリトンが俺の鼓膜を揺らし――


九州は大分、住みたい田舎ランキング上位の市町村がいっぱいの豊後の国は、黒田官兵衛ゆかりの地です。

そして父の実家があります。

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