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 俺が目覚めたのは、体がずいぶん揺らされていたからだった。異常な事態に、驚くほど高速で脳が覚醒していく。気付けば、俺の体は地面についてもいないようだった。誰かの腕に抱えられている。

「何事だっ!?」

「見たこともないモンスター!」

 大声で叫んで返す声は、俺の頭上から。どうやら俺の体を運んでいるのはレアルスらしい。

「いいよ、降ろせ! 自分で走る!」

「まだ頭冴えきってないでしょ! 百メートルも走れば撒けるから!」

「ああもううるせえ!」

 目に入った太ももに思い切りかじりつく。頭上から世にも奇妙なうめき声が聞こえた。何て言ったの今。文字にしたら「のにぇっ!」みたいな。

 レアルスの体が大きく前傾したところで手をついて体をひねり、腕の拘束から逃れる。そして立ち止りかけたレアルスの手首を思い切り引っ張って駆け出した。ちらりと後方に見え隠れした怪物は、明らかに十メートルを超えていた。俺の身長が一メートル八十センチほどだから、五倍以上、場合によっては六倍以上というわけだ。

 小川を渡りかけて、ふと思い付く。すぐに転進、流れをざぶざぶとかき分けて、水の中を川下へ。スピードはそれほど落ちない。後ろの少女に水がかかるのは許してもらいたい。後ろを、轟音を立てて何かが、おそらく怪物が走り抜けていく。やはり対応しきれなかったらしい。見た目で目も耳も判別できなかったため出た賭けだった。走るスピードを緩める。

「ウップス」

 俺の背中にレアルスが衝突してきた。彼女があちらの言語に精通しているわけはないから、おそらく偶然出た声なのだろうが……。

 追突少女レアルスさんが思い切り尻餅をつく。跳ね上がった水を避けてとっさに腕を掲げた。降ろして、レアルスのびしょ濡れ姿を堪能する。拳で語り合うスタイルのレアルス姐さんは、当然ながら身軽な薄着である。胸も身軽。巨乳顔してるのにね。

 可愛かったです。


「どういうことか、説明してもらおうか」

「なぜケンカ腰なのか……」

「いいからはよ」

 俺たちはひとまず小川を離れて、たき火に体を寄せていた。服を乾かしたい、体を温めたい、というレアルスの要求だった。後者は特にそうだろうなーと思う。当然ながら、着替えを覗くなんて下劣なまねはしていない。不可抗力は仕方ないけどね!

 男子諸君にはそのうち克明に描写する機会が与えられるまで待ってもらうとして今はとりあえず状況の把握である。

「あんたがなんでか知らないけどぶっ倒れたから、寝かしつけて起きるのを待ってた。そしたら突然あの怪物が出現した」

「突然?」

「としか言いようがない。で、とりあえずあたしがあんたを抱えて逃げたら、ゼンジーとシェスと離ればなれになって、あたしが追っかけられたから合流するわけにもいかなくて現在に至る」

「ゼンジー? ……ああ、ゴアラのことか。じゃあゴアラとシェスは逃げ切れたのかな?」

「あだ名と実名が逆転してる……。多分ね。あの後増えたりしてない限りは」

「どうやって合流するか、だな」

「とりあえずさっきのところに戻るかしらね。まあ、誰かさんのせいでびしょ濡れになった服を乾かすのが先だけど」

「自業自得」

「あんたのせいよ」

 視線が絡み合った。


 レアルスの用件はまだ一時間近くかかりそうだったので、先ほどまで続けていた狩りを再開することにした。

 左腰の両刃剣を抜き、切っ先を下ろし気味に両手持ちで緩く構える。木陰から、草食イノシシの姿をとらえる。こちらに顔を向けるより一瞬早く飛び出した。十メートル弱の距離を駆け抜けながら剣を斜めに振り上げると、刃が過たずイノシシの背脂を切り取る。急制動とともに体を元来た方へ向け、振り上げられた得物を獣の首に振り下ろした。頭が飛んだ。左手でそれをキャッチしながら、右手だけで剣を鯉口に滑らせ汚れを擦り取り、鞘に納める。……しょうがないだろ、刀の扱いしか教わんなかったんだから。

 ベルトポーチから短剣を取り出す。当然ながら、肉の解体用。あまり気を使っていないのですでに刃こぼれしたり油がこべりついたりと散々だ。毎回使いきりだからあまり困らないが。

 実は、ここでの狩りにおいて一番時間がかかるのはこの解体作業だったりする。動物が多すぎて探すのに全く時間がかからないからだ。だから、一人で狩りをしてると

「ギャンッ!」

「うわぁっ」

 動物の乱入とかもある。何人かで狩るときは、いつも一人が乱入を未然に防ぐべく狩りに参加しない――当然当番制――のだが。

 脚を相手の首に絡ませて締め上げたら、泡吹いて伸びた。作業時間が延びたので、動物に乱入されるリスクも高まる。このダンジョンではソロ狩りはぜひやめたほうがいい。


 十匹ほど狩って、出た荷物を事務所指定のビニール袋に詰めてたき火の場所まで戻ってくると、ちょうど戦闘服の紐の長さを調整しているレアルスと目があった。

 チィッ!

「ものすごい音量の舌打ちが聞こえたんだけど、何かあった?」

「何もなくて、だな」

「ふーん、すごい大猟だったように見えるけど」

「イベント的なものがだよ」

「当然じゃない、ここは効率優先で回転率がいいのが売りでしょ」

「うん、伝わらないならいいんだよ」

「なによ、気になるじゃない……」

「それより、準備できたか?」

「ええ、今ちょうど」

 キュッ、と高い音とともに麻の腰ひもを強くひいて、レアルスが返した。

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