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She is clever this way and that.

 レアルスが白女を抱えあげると、なんとも可愛らしい声が上がった。レアルスさんどうし、いや白女の方か。それにしても、なんでレアルスのほうが俺より声かっこいいんだ。さすがに声の高さでは俺のほうが低いがそれにしたって女子としては異様に低いし。あと白女さんは可愛すぎる。好きよ抱いて!

「あれ? ところでどうしてお前と戦うことになったんだっけ?」

 ふと気付いた疑問を口にすると、レアルスが、少し考えてから応答する。

「たぶん、十年前ね」

 え?


 俺とレアルスが知り合ったのは、十二年前の秋口だ。当時十歳の俺たちは、小学校の第一学年で同じクラスになったのだった。当時は、間違いなく一番親しい友人同士だった。恋愛感情の類はなくとも、お互いがお互いを同年代で一番知っていたように思う。

 それが決定的に変わったのは、第三学年の冬だ。最初は何て事のない、水がどうたらという喧嘩だったはずだが、たぶん喧嘩なんてしたことがなかった俺たちはそのことが怖かったのだと思う。過剰防衛を取った俺たちは、仲が良かった時代の反動とでも言わんばかりに関係を険悪なものにしたのだ。その直後しばらくの間は、お互い口もきかなかった。自分で作った状態のくせに、その関係がとてつもなく嫌だった。辛かった。我ながら馬鹿だった。

 修復の兆しが見えたのは、翌年の夏。当時のクラスメートだったシェスの誘いで、男女混合の海合宿に行ったのだ。そりゃあ、否が応でもしゃべらざるを得ないというものである。一週間の長丁場だったし、たったの六人だったし。

 かくして、俺たちの今の関係が形成されたわけである。

「誰がそんなことを言えと!?」

「あんたでしょ。なんでいまさら」

「いや言ってねえよ!? いまさらって思ったのは俺も同じだから!! 別にお前と俺の関係がどうたらなんてどうでもいいから!!」

「え、だってさっき『どうして戦うことに』って」

「お前とじゃねえよ!! そちらの方とだよ!!」

 勢いよく白女を指さす。「慇懃」と少女が漏らす。とっさに出る言葉かよそれ。あとそういう意図はない。

「まあそういうことなら、あの汚い顔した巨大怪生物に追いかけられたのが最初じゃない?」

「思い出した。怪物さん凄まじい言われようだな」

「一ついい?」

 そこで、白女がそうたずねてくる。位置の関係上、表情までは見えないもののその声色には焦り、驚き、あと確信がにじんでいた。

「ああ、どうぞ」

 答えたのはレアルス。いい回しが男前。

「その怪物の姿かたちをできる限り教えてほしい」

「んー……あたしはとにかく逃げてたからなぁ、あんたは?」

「とりあえず、大きさが異常だったな、十メートル以上はあった。あと、目と耳が視認できないほど退化してた。小川に逃げ込んだら追っかけてこれなかったことからも間違いない」

「そう」

「どうかしたか?」

「敵に教える義理はない」

「てめぇ、力関係理解してるのか」

「いつでもこの縄から脱出可能なのに、なぜ私が脱出しないと思っているの?」

らくしたいから」

「そういうこと。いつでも私はあなたを殺せる」

「一度殺されかけといてよくいえるもんだ」

「やり直す?」

「お前、結構喋るのな」

 白女が小さく呻いた。頭が足りねえな。

「あと、もう一つ理由あるんじゃねえの?」

「……聞かせてみなさい」

「体力」

 それっきり、白女は口をつぐんだ。わかりやすいな。実はこのクールなイメージも作ろうとしてんじゃねえのか? だとすれば、著しくこいつは演技力不足だ。くすぐったら笑うかもしれない。

「……話す気になったか、怪物の正体」

「……私は何も知らない」

「どうだか、怪しいもんだな。さっきの反応を見る限り」

 忍び足で少女の脇まで歩いて行き、横からぬっと顔を出す。白女が可愛く驚きの表情を作る。それと怒り。

「ほれほれ、力関係は全然違うぜ、お前が思ってたのと? 今すぐ殺されるより言っちゃった方がよほど楽だぜ、おバカちゃん?」

 思い浮かぶ限りのウザいキャラを演じる。「うぜえ」とありがたい感想を漏らしたのはレアルス。なんか腹立ったんですが。

「くっ……」

「ほら、レアルス、このおバカ様を降ろして差し上げろ」

「はいはい」

 だからなんでお前は俺への反応がそんなに薄いの? シェスには一言一句言葉を拾って肉体言語で突っ込むじゃん。よかったー。

 優しく白女を地面に横たえて、レアルスは「じゃあ、見張りに行くからどうぞ」と木々の間に消えていった。そういう気遣いはありがたいんだけど、ホント俺との扱いの差は何なの? ちなみに、ここでいう気遣いというのは俺と白女を二人きりにすること。俺をオオカミ呼ばわりするレアルスには珍しい。なんだかんだ信頼してくれているのか? まさか。あいつはあれで頭がいい。それだけだ。ちゃんと順序を考えられるだけである。

「じゃ、話してもらおうかな」

 腰から剣を抜いて、白女の眉間に切っ先を触れさせる。

「……ちょっと長めの話」

 そう、白女は切り出した。

「伝わりきらないのを承知で、一言で言うと、『知人の家畜』よ」

「ああ、意味不明だな」

「まあ、順を追って話すわ」

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