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8:良い人生にしよう



 …そんなある日の夜だった。



その日も部屋から用がない限り全く出ずに、1日を終えようとしていた。

もう涙も枯れて、俺は心身疲れ果てていた。



―こんな姿、雪矢には絶対見せらんないな…―



…なんて思いながらも、どうすることもできずにその日もベッドに入り、眠りについた。

全く、生きているという気がしなかった…。

本当に…何のために生きているのか、このまま生きていて俺は…どうなるっていうのか。

もう、俺は生きていたくないとさえ…思っていた。



…そしたら、夢を見たんだ。

まるであの事故の日見たような夢だった。






 俺の部屋に幼い頃の俺と雪矢がいたんだ。

多分、小学校高学年くらいの歳だ。

俺はそれを天井から見てるんだ…。

本当に、あの時の夢と同じように…。


「あ〜ぁ、まじやってらんねぇよ。俺とユキがこう合体してさ、1人になったら無敵だと思わねぇ?」


幼い俺が床に寝転がりながら手をパンッと合わせて、合体のジェスチャーをしながらため息まじりにそう言った。

隣で雪矢は座って本を読みながら笑って言った。


「嫌なことがあるたびにそんなこと言ってたらキリがないよ。1人1人違うからそれを個性って言うんじゃない?」


「だぁーーッもう!全然わかってねぇよ、ユキわ!俺達が合体したら無敵なんだぞ!?嫌なことなんてひとっつもなくなるんだぞ!?それって最高じゃん!だろっ!?」


俺は身振り手振り激しく動かしながら、雪矢に訴える。

しかし、雪矢は本から目を一時も離さずに

「う〜ん」と唸るだけだった。


「どうにかそんな風にならねぇのかなぁ…」


俺は全く関心のない雪矢を放って、独り言のようにそう言った。

すると雪矢は平然とやはり本から目を離さずに言った。


「どっちかが死ねばいいんじゃないの?」


俺は驚いて言葉を失い、寝転がったまま、下から雪矢をポカーンと見つめていた。

本当に、突然とんでもないことを言うやつだ。


「…は?」


「この本に書いてたんだ。『私が死んでも私はなくならない。あなたの心の中にずっと生き続ける。そしてあなたを守り続ける』って。つまり、死んだら何だって出来るってことじゃない?」


「…なぁ、お前それ安直すぎない?だいたい縁起わりぃよ。」


俺はムクリと起き上がって、雪矢の本を取った。

表紙にはこう書いてある。


“あなたの心に染みた、100の言葉”



…一体何と言う本を読んでるんだか…。


「でもこれって本当だと思わない?死ぬ直前の人は嘘つかないよ。どっちかが先に死んで、生き残った方に力を貸せばテッちゃんが言ってるように無敵になると思うけど。」


俺に本を奪われたっていうのに何事もなかったように雪矢は言った。

冗談を言っているような顔でもない。


「そうかもしんないけど、そんなんで無敵になってもなぁ〜。だいたい死んでまで力貸すなんて…そんなに俺、お人よしじゃねぇし〜」


雪矢から奪った本を読みもせずにペラペラとめくりながら力無くそう言うと、雪矢がまたしても凄い事を言い出した。


「俺は力貸すよ。テッちゃんにならね。」


俺は目を見開いて口を閉じることも忘れて雪矢を見つめた。

雪矢はニッコリ笑っている…。


「…お前、バカ?」


「何で?テッちゃんになら別に力貸してもいいよ。テッちゃんが死ぬまでね。だって先に天国行ったってヒマだもん。約束するよ。」


そういう問題か?と思いつつも、雪矢らしいなと笑いが込み上げてくる。


「お前ホント馬鹿!!普通そう言うこと言うか!?…じゃあいいよ、どっちかが先に死んだら、そいつが死ぬまで力貸そう。」


俺がそう言うと、雪矢は笑いながらこうも言った。


「そう考えたら、どっちかが先に死んでも悲しくないよね。」


その言葉が…こんなに早く現実のものになるなんて…

この時俺達はこれっぽっちも予想していなかった。




…そして夢は真っ暗闇になってしまった。




 俺はガバッと勢いよく起き上がった。

もう枯れたと思われていた涙がこれでもか、というくらい溢れ出していた…。



―…そうか、そうだった。

忘れてた…。

俺は…1人になったわけじゃないんだ。

俺達は…合体したんだ、そうだろ、ユキ?離れ離れになったんじゃない…その逆なんだよ…。

俺達はやっと無敵になったんだ、何だって…出来ちゃうんだよ…。ユキは嘘をつかない。それくらい…ずっと一緒にいた俺が1番わかってる。だから…お前を信じるよ。俺は1人なんかじゃない…。ユキも…1人になったわけじゃない…。俺達は…1番近いところにいるんだ、きっと。だから見えないだけなんだ…。あんな約束…すっかり忘れてたよ、ユキ……―



やっと俺の中にポッカリ空いていた穴の答えが見付かった気がした。


どうやって通ったらいいのかわからなかった道にも、明かりが灯ったように、道がはっきりと開けたような気がする…。


俺はとめどなく流れてくる涙を拭いもせずに、思う存分流していた。

…きっと、これが最後の涙だから。

この先、俺は雪矢がいないことで悲しくて泣いたりすることはないだろう…。


だってその必要はないんだ。

俺と雪矢は、俺の中でいつも一緒にいるんだから…。




ピピピッ

ピピピッ

ピピピッ…


俺は布団の中でもぞもぞ動きながら、手だけを伸ばして、一定の音を鳴らすうるさい目覚まし時計を止めた。


「…うるせぇなぁ〜…」


そう文句を言いながらも、素直に布団から出て、ベッドを降りた。

そして真っ直ぐ窓へ直行する。

カーテンを勢いよく開け、窓を開けた。

明るい日差しが俺を包み込み、部屋を照らした。

部屋の中の重苦しい空気が一気に浄化される。

まだ冷たい3月の風が、俺の体を撫でて、部屋の中へ滑り込んでいった。



雪矢が何で毎朝窓を開けるのか、何だか最近わかった気がする。

そして俺は十分眠気も醒めて、着替えに取り掛かった。




 あれから…俺は不思議なことに一度も寝坊も遅刻もしていない。

これも、雪矢が俺に力を貸しているのだろうか、と思ったりする。


それに、あの夢を見てからは何だか体も軽くなったし、ちゃんと今を見ることができるようになった。

おかしなくらい身体中から力がみなぎってくるんだ。

悲しんで、苦しんで、何もしないでいる俺なんて…雪矢は望んでなかったと思う。

俺に

「生きろ」と言った雪矢…俺に、雪矢の残りの人生を託したに違いない…。


だから、俺は前を向いて歩いていくよ。

大丈夫だ、俺には雪矢がついてる。

こうなればもう無敵なんだ。

2人なら何だって乗り越えられる。




良い人生にしよう。




「行ってきます」


俺は身支度を整えて、元気に家を後にした。

朝日がまるで俺を迎えるように明るく照り付けている。

俺は駆け出した。

鞄には、薄汚れた白いマスコットに不器用な文字で


“ユキ”


と書かれたお守りがぶら下げられ、大きく弾んだ…。




【完】

えぇーっと…ちゃんとまとまってないかもしれないですが、最後まで読んで頂いてありがとうございます!この話は実は親戚が亡くなったときに自分を励ますために書いた話なんです…笑 死ぬというのはただただ悲しいことではない、ということを自分に言い聞かせたかったんです。この話を読んで頂いた方にも是非そういうものが伝わって頂けたなら幸いです。最後にこんな駄文を最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます!!厳しい評価お願いします!

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