7:居場所
葬式は、速やかに行われた。
あまりにもたんたんと進むものだから、本当は誰か別の人の葬式でもやってるんじゃないかとさえ思う。
今までのが…全て夢なんじゃないかって…。
葬式の合間に疲れて眠って目を覚ますと、毎度のように辺りを見回し、雪矢の姿を捜してしまう…。
でも、いくら捜しても雪矢の姿はどこにもなくて、あの爽やかな笑顔で微笑む少し前の雪矢の姿が写った遺影があるんだ…。
夢じゃないんだって…思い知らされて…、それでも実感が湧かないんだ、雪矢がいないなんて…。
告別式で…最後に雪矢の姿を見た。
あまりに綺麗で、傷1つ見当たらない雪矢の顔…。
いつものただ眠っている時の雪矢の顔だった。
―どうしてだろう?こんなに綺麗なのに…。死んでるなんて嘘だろ?―
「…ユキ…お前眠ってるだけだよな?…長い眠りについてるだけなんだろ…?また…いつでも会えるよな?」
俺が最後に雪矢にかけた言葉は、こんなどうしようもない、弱音混じりの言葉だった…。
別れの言葉だっていうのに何一つ気の利いた言葉さえかけられない。
本当はもっともっと言いたいことが沢山あった。
言いたくても恥ずかしくて言えなかったことだって沢山ある。
雪矢みたいに…素直に、プライドも捨てて洗いざらい本音を言いたい…。
でも俺…不器用だから、何ていうか…上手く言えないし、やっぱり恥ずかしいし…何より今、そんなこと言える余裕なんてない。
そんなこと言ったら…泣きたくもないのに涙が溢れてくる。
本当は今、ここで雪矢の顔を見るのでさえ、いっぱいいっぱいなんだ…。
でも、きっと雪矢ならわかってくれる。
俺が何を思ってるのか、何を言いたいのかを…。
17年間…ずっと一緒にいたんだから…。
…それでも1人になると、涙を流さずにはいられなかった。
だって…仕方ないんだ。
どこに行っても、どこを見ても、雪矢との思い出ばかり溢れてくるんだ…。
俺の行くところには常に雪矢がいて、どこに行くにも一緒だったんだから…。
隣に人がいないって…こんなに寂しいことなんだってことを初めて知った。
心にポッカリ穴が空くってことも、こういうことなんだって分かった。
何をしても埋まらない穴が俺の中に空いてしまったんだ…。
雪矢がいなくちゃ…やっぱり俺はダメだ。
雪矢が思ってる程、俺は強い人間でもないし、優れてるわけでもない。
この先どうやって生きていくのか、今までどうやって生きてきたのかさえ、全然わかんないんだよ。
―どうしてお前だったんだ?どうして俺じゃないんだよ…。俺が生き残るより…雪矢が生き残った方がよかったんじゃないのか?―
何度…そう思ったことだろう。
何度、時間よ戻ってくれと願っただろう。
何度、夢じゃないかと確かめただろう。
―…ユキ…俺の人生、ここでストップしたみてぇだ…―
葬式も終わって、雪矢が真っ白な骨になった。
あんなに小さな箱に、あの雪矢が納まっちゃうんだから笑えるよ。
周りでは、またいつもの普段の日常が始まるんだ。
それが、信じられない。
俺にとって世界が180度変わってしまったんだ。
いつもと変わらない日常なんて…送れるわけがない。
それから…俺は部屋に引きこもったきり、あまり外に出なくなった。
本当はもう学校にも行かなくちゃいけないんだ、でも…部屋から出られない。
だって外は…雪矢との思い出で溢れてるから…苦しくなってしまうから…そんなの堪えられないんだよ…。
そう思っていながらも、部屋にこもっている時だって雪矢のことを一度だって忘れたことがない。
忘れられないんだ…。