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5:地獄か夢か



 気付けばフワフワと真っ白い世界に浮いていた。

色も

音も

人も…

何もない世界。

無重力みたいで体がものすごく軽い。

空気のベッドにでも寝ているみたいにフワフワ気持ちが良い。



―あ〜ぁ…俺の人生短かったなぁ…。もっと色んなことしたかった…。全然やりたりねぇよ。17歳とか…若すぎだろ。ユキとの約束も破っちゃったし…今まで1回も破ったことねぇのに…。まぁあれは無理矢理だけど。あ〜ぁ全部中途半端…ありえねぇ〜〜―



そう思いながらも、何故だか気持ちは晴れ晴れとしていた。

それはきっと雪矢の告白を聞いたからかもしれない。

俺の言いたいことは何一つ伝えることは出来なかったけど、雪矢の気持ちを知れてよかった。

俺と出会えて、幼なじみでいられてよかったと言ってくれた…。



―…ユキ、俺もお前と出会えてよかったよ、本当に。俺の人生短かったけど…捨てたもんじゃないと思えた。それなりに内容の濃い一生だったよ。父さん、母ちゃん、ユキ、学校のみんな…今まで本当に…ありがと…―



突然、良い気分に浸っていた次の瞬間、急に体がズシリと重くなった。

まるで無重力の世界から一気に重力のある世界に引きずりこまれているみたいだ。

ものすごい圧力が、猛スピードで俺の体を下に引きずり落としていく…。



―…やばい!誰か!!もしかして俺…地獄に落ちるのか!?―



一体俺はどこに引きずり込まれているのかと、恐る恐る下を見ると、そこには小さい頃に図鑑などで宇宙の写真を見た時に載っていた、真っ暗な闇、ブラックホールのようなものがあった。

どんどんそれは俺に迫ってくる。

いや…俺がどんどんそれに迫っていっていた。

いくらもがいても意味はなかった。

体は重く、スピードは増すばかり…。

俺の無我夢中の抵抗も虚しく、そのブラックホールのような黒い穴に


落ちていった…。



…ドンッ!!



落ちたような、何かにハマったような強い衝撃を感じた。

一体どこまで落ちていくのだろうと思っていたが、やっと地面についたらしい。

俺は見たくない気持ち半分、見たい気持ち半分で、恐る恐る目を開けた…。


そこには…

真っ白い天井があった。

そして…何やら薬品のような匂いもする…。

まだ意識が朦朧(モウロウ)とする中、俺の左側から鼓膜が破れるのではないかと思う程の大きな声が耳に飛び込んできた。


「…テツ!テツ!!お父さん!テツが目ぇ覚ましたよ!!」



―…うるさい…、何だここ…―



俺は声を無視して目を右へ左へと動かした。

真っ白い壁に…すぐ近くには…点滴?

地獄…じゃない?

手を少し動かしてみる…なんと動く。

すると目の前にすごい顔の2人の男女が顔を現した。

いや…これは俺の父さんと母ちゃんだ。

不安そうに眉を潜めながらも安堵しているように見える。



―あ〜ほんと、ひどい顔。…で、ここは?―



「…俺、死んだ…?」


声も出た。

すると母ちゃんはぎこちない顔で笑いながら言った。

「バカね。ちゃんと生きてるわよ。」


「…ここ、地獄じゃないの?」


「あぁ、多分な。」


父さんも母ちゃんの肩を抱きながら笑って言った。



―…そうか、俺は生きてるのか。ここは…病院のベッド?じゃあさっきのは全部夢?確かに体は動く。首も左手も右手も、左足も右足も…―



「…っ!!」


と右足を動かそうとした瞬間、激痛が走った。

首を持ち上げて右足を見てみると、ギプスがしてあった。

右足は…折れているらしい。

ふと右手にも違和感を感じた。

目の高さまで持ち上げると、右手には何かが握られていた。

ゆっくりと開くとそこには…お守りのマスコットが握られていた。

薄汚れた白いマスコット。

雪矢の手作りのお守り。



―…そうだ、ユキは?―



キョロキョロと周りを見渡すが、父さんと母ちゃんしかいなくて、どこにもいない。


「…ユキは?」


俺は母ちゃんにそう尋ねた。

しかし…母ちゃんはあからさまに俺から目をそらし、とても言いにくそうにためらっていた。

俺は父さんの方に目を移すと、また同じように聞いた。


「ねぇ、父さん…ユキは?」


しかし、父さんも俯き、何も答えない。

妙な胸騒ぎがした。体中の血が勢いよく体内を巡る。

心臓が早鐘のようにうち、胸が苦しくなった。

俺は左手で布団を払いのけ、ムクリと起き上がると、ベッドから足を下ろした。

「…!ちょっとテツ!何する気!?安静にしてなきゃ駄目よ!」


しかし、俺はそれを無視してベッドの横に置かれていた松葉杖を掴み、脇にあてて立ち上がろうとした。


「…ぅっ!!」


折れている右足に体重をのせてしまい、激痛が走った。

でも…今はそんなことはどうでもいい。

雪矢を…雪矢を探しに行かなくちゃ。


ゆっくりと…確実に、俺は歩を進め病室を出た。

父さんと母ちゃんも諦めたのか、俺を見守るようにあとを追ってきた。

病室を出て…すぐに雪矢がどこにいるのかわかった。


…だって、声がしたから…


雪矢の母さんの泣き声が…。

俺は部屋を出てすぐのところに立ち止まり、声のする方を見た。

俺の病室から左に一部屋空けて、もう一つ向こうの病室…きっとあそこにちがいない。

嫌な予感が外れていることを祈り、大きく鼓動を打つ心臓を落ち着かせるため、深呼吸をした。

そして…その病室に向かって、松葉杖の力を借りて歩き出す…。



夢の中の雪矢と同じ…右足をかばいながら…。

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