3:助け合い合戦
気が付くと、俺は幼稚園にいた。
懐かしい、俺と雪矢が通っていた幼稚園。
俺は外で楽しそうに遊ぶ子供たちより、遥かに上にいて、その様子を見ている。
―みんな小せぇ〜…―
見ていくと、俺と雪矢を発見した。
とても小さくて、今の状態からは想像もできない。
そしてもう1人、俺達と一緒に遊んでいる男の子がいた。
こいつは覚えている。
西野裕介だ。
俺達は3人で楽しそうに遊んでいる。
しかし、しばらくすると、何やらケンカが始まった。もちろん、雪矢ではなく俺と西野が。
何が原因だったのかはよくわからないが、きっと些細なことだろう。
俺の斜め後ろにいた雪矢はキョトンとして、状況をつかめないでいる。
「テツの馬鹿!!お前なんか嫌いだ!どっか行け!!」
「うるせぇーお前こそどっか行け!!」
―あ…何だか少しずつ思い出してきた。この時のこと―
「俺知ってるんだぞ!お前さっきトイレに間に合わなくてオシッコもらしただろ!!」
俺が大声でそう言うと、周りで遊んでいた子達が、西野を見てケラケラ笑い始めた。
すると…何やらキーキー喚きながらキレた西野。
近くにあった、花壇に使っていた鉄のシャベルを手に取った。
…思い出した。
この時俺はヤバイと思ったんだ。
すっかり忘れていたから。
西野はキレると手当たり次第、何でも投げ付けてくるということ。
案の定、西野は俺に向かってその凶器にもなりえるシャベルを俺に投げ付けてきた。
しかし…それは大きく的をはずれ…俺の斜め後ろにいた雪矢の元へ…。
「ユキ!危ない!!」
何を思ったのか、俺は雪矢に向かって飛んでくるシャベルと雪矢の間に飛び込んだ。
頭に鋭いものが勢いよくぶつかった。
それからすぐに頭から真っ赤な血がポタポタと滴り落ちてきた。
よく状況を把握できていない雪矢がキョトンとした顔のまま、血が出ている部分を優しく触り言った。
「テッちゃん…?大丈夫?」
何もわかっていない雪矢のその手が…あまりにも温かく、優しかったから…痛みをすっかり忘れて、俺は少しも泣きもせずに滴り落ちる血をただじっと眺めていた。
急に視界が真っ白になった。
幼稚園と俺達の姿は消え、今度は俺達の家の近くの公園が徐々に、そこに姿を現した。
そこはよく小さい頃に雪矢と2人で遊んでいた公園だった。
するとそこにはまたしても、小学校に入ったくらいの俺と雪矢がいた。
今の俺は例によって遥か上空からそれを見ている…。
「おい、ユキ!ちゃんとキャッチしろよ!落としたら罰ゲームだからな!」
「わかったぁ!」
俺は雪矢の返事を聞くなり、紙飛行機を片手にジャングルジムを登り始めた。
雪矢は下でそれを眺めている。
俺は1番てっぺんまで登ると、空高く紙飛行機を飛ばそうと、片手でジャングルジムの一部につかまり、体を支えて前に乗り出した。高く…高く…
そう思いながら、どんどん体を前に乗り出していると、力がまだついていない俺は、だんだん体を支えきれなくなって手がツルリと滑り、手がジャングルジムから離れてしまった…。
「…あっ!」
俺の体は重力に逆らうことなどできず、まるでスローモーションのように真っ逆さまに…落ちていく…。
「テッちゃん!!」
雪矢の声…。
ドスンッ!!
俺は案の定、真っ逆さまに地面に落ちた。
…でも、なぜか痛くなかった。
運よく柔らかい所に落ちたらしい。
あ〜俺ってとことん運が良いなぁ。
なんて、馬鹿みたいに思っていたら、異変に気が付いた。
「…あれ?ユキ?」
周りを見渡すと雪矢がいない。
すると地面から微かにうめき声が聞こえてきた。
俺はビックリして下を見ると…そこには雪矢がいた。
俺の下敷きになって倒れている。
「ユっユキ!!?」
俺は慌てて立ち上がると、雪矢の足から血が出ているのに気付いた。
その時、俺はやっとわかったんだ。
雪矢が俺を助けようとして俺が落ちるちょうど真下に滑り込んで、俺を助けに来たのだ。
でも、結局支えきれなかったのだろう。
「ユキ!?何でこんなことするんだよ!?」
すると雪矢は力無く笑って言った。
「だってテッちゃん…前に俺のこと…助けてくれたじゃん…」
景色はまた真っ白になり、それからまた次から次へと過去の映像(思い出)が流れ出した。
俺と雪矢の助け合い合戦。
雪矢が危険な目にあえば、俺が危険を承知で助け、
俺が危険な目にあえば、雪矢は必死で俺を守るんだ…。
小さい頃からずっとそうやって俺達は助け合ってきた。
そんなこと…すっかり忘れてた。
まるで走馬灯のように俺達が助け合う映像が頭に鮮明に映し出された。
…そして今回の事故。
耳をつんざく車の音で蘇る…。
そして映像は…真っ暗闇になった。