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2:偶然じゃなく必然



やっと三条から開放されて、教室に行くとまた朝からハイテンションの奴らが俺に向かって突撃してきた。


「テツ!!おせぇよ!北村のスゲェ話入手したぞ!」


そう叫んで4・5人の黒い塊が俺を囲む。


「北村!?何だよ、スゲェ話って。」


「それが…なんと〜北村、お見合い結婚するんだってよー!!」


そう言ってゲラゲラ笑っている。

俺も

「まじでぇ!?」と言って一緒に笑った。

北村というのは国語の先生で、俺達の格好のネタだ。頭のてっぺんがハゲ上がっている42歳。

年がら年中汗をダラダラ垂らしたデブで、喋ると吃ってすごい。そのうえよくキレる。

結婚とは無縁と思われていたその男の結婚とあっちゃあ騒ぐのも無理はない。


「よしっ!これで今日の国語は潰れるな。頼んだぞ、テツ!」


「まかせとけって。ちょろいちょろい。」


そんなかんじでいつもの他愛のない話をしていると、1番後ろの窓側の席で外を眺めて1人ボーッとしている雪矢が目に入った。

それはいつも見る光景だ。

俺と雪矢はもちろん、学校ではずっと2人でいるというわけではない。

他のやつとつるむことだってよくある。

しかし、雪矢は…あまり自分から輪に入ろうとしない。

たいてい1人でボーッとしている。

俺以外に仲の良い奴がいないわけではないのだが…完璧な雪矢でも、人付合いが苦手という短所もあるのだ。

おれが勉強や早起きが苦手なように。




 そうこうしているうちに、数学の授業が始まった。

スラッとした身長の高いじいちゃん先生が教室に入ってくるなり言った。


「先週の小テスト返すぞー。今回は結構難しかったからみんな苦労したみたいだなぁ。」


楽しそうに笑う先生とは裏腹に、俺達はブーイングだった。

名前を呼ばれて答案を取りに行くと

「まだまだだな。」と言われた。

恐る恐る見てみると、案の定最悪だった。

20問中5問しか合っていない…。


「はぁ…」


みんなも俺と似たり寄ったりらしく、そこら中からため息やうめき声が聞こえてくる。


「まぁ、今回のは確かに難しかったが、ちゃんと満点取ってる奴もいるからな。みんなもちゃんと勉強しろよ。」


…満点。

そう言われただけで、俺は誰だかわかってしまう。

そう、雪矢だ。

あいつ以外、ありえない。

俺はもう一度自分の答案用紙に目を落とす。


…5点。


―あ〜やっぱり、壁は高ぇな…。―




 その後も、

「テツー」

「テツー」と周りに振り回され、俺は助けを求めるように雪矢のところへ行った。


「あ〜疲れた…まじ死ぬ…」


そう言いながら、雪矢の前の席に崩れるようにドカッと座った。


「お疲れ。みんなテッちゃんと遊びたくて仕方ないんだね」


雪矢はそんな俺を見て笑って言う。


「いや…あいつらはただ俺を振り回したいだけだ。だいたいあいつら疲れを知らねぇんだ。少しは俺のことも考えて欲しいよなぁ…。やっぱりユキといるのが1番落ち着くわ〜」


「…ふ〜ん」


雪矢はそっけなく何とも言えない声を出す。


「やっぱユキは俺のことわかってくれてるってかんじするし〜、あいつらみたいに乱暴じゃないしな!」


雪矢に笑いかけてそう言った。しかし、雪矢の顔は浮かない。


「何もわかってないんだね…テッちゃん。」


「…え?」


すると教室の端から大声で俺を呼ぶ声がした。


「おい、テツ!!何やってんだよ!後輩んとこ行くってさっき言ってただろ!?」


「…あれ?そうだっけ?あ〜面倒くせぇなぁ〜…」


俺は重い腰を上げて、渋々そいつらのいる方へ向かった。

…何か気になる。

雪矢のさっきの言葉…。

明らかに雪矢らしくなかった。




 その後も俺は、雪矢といたり、周りとワイワイ騒ぎながらいつもと同じように変わらない1日を送った。

平凡で、平和な毎日…。

そんな毎日が…この先ずっと続くと思っていた。

俺と雪矢の間に高く越えられそうもない壁があるけど、それでも俺達はこれから先もずっと…肩を並べて一緒に歩いていくんだと…思っていた。

この日の放課後までわ…。




 「ユキー帰んぞ。」


俺はまだ帰りの支度を始めてもいない雪矢にそう言った。


「本当に帰るときだけは行動が早いよね、テッちゃんって。尊敬するよ。」


雪矢はゆっくり立ち上がり、たいして急ぎもせずに、マイペースに帰り支度を整え始めた。


「あぁ、尊敬しろ。用もないのにいつまでも学校に残ってるっつーのは時間の無駄!それなら早く帰りてーもん。」




 そして俺達は学校をあとにした。

家まではわずか5分…。

この間に、こんな短い5分という時間に俺達の運命は大きく変えられることになる…。

何で今日だったんだろう?

何で今だったんだろう?

でもこれはきっと、運命のいたずらでも偶然でもなく…必然だったんだ。




「あ〜今日さみぃなぁ…。道がツルツルじゃん。…うわ!」


言ったそばから俺は足を滑らせた。

すぐに体制を戻したが、これで学校を出てから4回目だ…。

隣で雪矢は俺を見て笑っている。

何故だか雪矢は1度も滑っていない。

今日はいつもより寒さが厳しく、道に残っていた雪や、溶けて水っぽくなっていた部分が凍ってツルツルだ。

道路を走っている車も案の定滑っているようだ。

さっきから何度もスリップしている車を見る。


「さっみぃ〜、おい、ユキ!早く帰るぞ!」


俺は足早に駆け足をして、走り出した。


「そんなに急がなくたって、家は逃げないよ、テッちゃん。」


マイペースな雪矢は寒いというのに足を早めるでもなく、いつもの調子で平然と歩いている。

俺は振り返って雪矢を見た。


―こいつ本当は雪男なんじゃ…?―


そんな変なことを考えていると、ふと何かが俺から落ちた気がした。


「どうしたの?」


急に立ち止まる俺に追い付いた雪矢が怪訝そうに聞いた。

何が落ちたのだろう?

下を見ても何もない。

辺りをキョロキョロ見渡すと、車道のところにいつも鞄につけている、雪矢の手作りのマスコットが落ちていた。

きっとさっき急に走ったときに振り落とされたのだろう。


「三条の奴、ボロいのに引っ張るからちぎれちまったじゃねぇか。」


俺は車が来ていないことを確認すると車道に入って行った。


「テッちゃん?何か落としたの?」


「いや、別に。」


俺は薄汚れたマスコットを拾い上げ、体制を起こした。

それからは…一瞬のことだった。


すぐそこのカーブを俺に気付かず、勢いよく曲がった車…こんなに滑るというのにスピードが結構あった…と思う。

…だからかもしれない。

俺に気付いてブレーキを踏んだであろう車。

スリップして止まらない車。

耳をつんざく車のタイヤと地面の氷が擦れる摩擦の音…。



―…あっやべぇ…死ぬ―



そんなことを考えている余裕があったのに、俺の体は恐怖からか、金縛りのように動かなかった。

もうぶつかると思ったその時、声が聞こえた。

何度も聞いた俺を呼ぶ声。

「テッちゃん!!」


その後、2つの衝撃があった。

車が俺にぶつかる衝撃と…横から俺を突き飛ばすように押す衝撃…。

一瞬の…ことだった。

俺は意識を失い、その後のことは…覚えていない。

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