幕間 5
新しい暮らしは慣れないことだらけだった。
新しい町。
新しい家。
新しい学校。
海辺の白い家で、おばあちゃんと二人きりの生活。
おばあちゃんはずいぶん前に仕事をやめているはずなんだけど、毎日何かを書いたり、どこかに電話したりで、忙しそう。
聞いてみると、何だか『反ブタ食活動』ってのをやってるらしい。高い知能を備えているにも関わらず、劣悪な飼育環境におかれているブタたちを守るために、営利主義に走っている畜産業界を倫理的に追及するのが目的です――って説明されたけど、まだ子供のあたしにはチンプンカンプンだった。
クレアイはブタの町なんだと、おばあちゃんは言う。
町の中心に食肉センターって大きな建物があって、その利潤のおかげで町は回っているんだとか――だから、難しい話は分からないんだってば。
当然、食卓にブタ肉が上がることはない。
牛や鶏は普通に食べるから、別に不満はないんだけどね。
それより――友達ができないことの方が、あたしは不満だった。どうやらこの町では『ガイジン』は珍しいらしくて、何だか避けられてる感じ。
……あたし、『ガイジン』じゃないんだけど……。
でもいいんだ。
あたしには、地元の親友、ポリーがいる。国際電話は代金が高いからあまりできないけど、手紙のやりとりは続いている。あたしたちは確かに繋がっているんだ。いくら遠く離れたって、友情はなくなったりしない。
それに――あたしには、おばあちゃんがいる。
日本人の友達なんかできなくたって、平気だ。
その時は、確かにそう思っていた。