幕間 4
ぼくは空を見上げていた。
空がこんなに高いなんて、いままで知らなかった。
ここに来てから、どれくらいたったのかな。最初は、急に知らない場所につれてこられて、すごい不安だったけど――なれると、ここはすごくいい場所なんだって、分かった。みんなとっても優しいし、食べ物もおいしい。
少し前に連れてこられた『がっこう』の外、そのすみっこにたてられた『しいくごや』が、ぼくのあたらしい家だった。
一日に二回、『しいくとうばん』って人たちが食べ物を運んできてくれる。『しいくとうばん』は『六ねん一くみ』の人たちが交代でやるってことらしいけど――ぼくにはむずかしくて、よくわからない。でもいいんだ。『しいくとうばん』の人たちはみんな優しいし、食べ物はいつもおいしい。『しいくごや』は、少しあついけど、でも前にいた家よりかはずっといい。ぼくはまんぞくだった。
「アカネ、げんきー?」
名前を呼ばれて、ふりかえる。
おんなのこが、ニコニコ笑ってたっている。
一番なかのいい子だ。
この子は、『しいくとうばん』でもないのに、毎日ここに来てくれる。いつも明るくてげんきだし、ときどき『きゅーしょく』の残りを持ってきてくれるから、ぼくはこの子がだいすきだ。
「あ、エサ残してるじゃーん。だめだよ。残さず食べないと」
ちがうよ。おいしいから、ゆっくり食べてるんだよ。こんなにおいしいのに、残したりするもんか。そうおもったけど、残念ながらぼくのおもってることはつたわらない。しかたないけどね。
「まあいいや」最初からたいして気にしてないふうで、ぼくの横にすわる。「それより、今日はずっとここにいていいかな……」
急にげんきがなくなる。どうしたのかな。
「わたし、あんまり家に帰りたくないんだよね……」
そういえば、前にはなしてた。お父さんとお母さんがけんかばっかりだとか。僕にはお父さんもお母さんもいないからよくわからないけど、なんだかかなしそう。こっちまで、かなしいきもちになる。
「アカネは、かわいいね……」
体をなでる手が、あたたかい。
「わたしのともだちは、アカネだけだよ……」
ぼくのともだちも、アスカちゃんだけだよ?
アスカちゃん。
それが、ぼくにはじめてできた、トモダチの名前だった。