幕間 3
目の前が、明滅した。
一番上の照明が点滅したのだ。
同時に、ブザーが鳴り響く。
それは、準決勝の最終ラウンドの開始を意味していた。
金属だけで組まれた無機質なセットに、大きめの机が一つ。それに向かい合うようにして座っている人間が二人。
私と、対戦相手だ。
二人の間には、ステーキの乗った大皿が五皿ずつ、合計十皿並べられている。ステーキの重量は、一皿三百グラム。五皿で一.五キロ。食べられない量ではない。これを先に食べ終えた方が、決勝進出することができると言うわけだ。
一ラウンド目のラーメン二杯では、相手がポイントを先取した。しかし、次のケーキ二十皿では、私がポイントを巻き返した。これで、一対一。もう負けは許されない。
対戦相手は、確かに実力者だ。
しかし、勝てない相手ではない。胃袋の大きさもスピードも桁外れだが、はっきり言って、頭が悪い。時折、セオリーを無視して力押しで責めようとする傾向がある。彼にはブレーンとも言える友人がいて、その友人が戦略を練り、幾度となく助言を与えているのだが――それを、簡単に無視するのだ。この準決勝でも、水を飲みすぎている。あれでは、とても一.五キロのステーキをテンポ良く呑み込めないだろう。
しかし、追いつめられているのは、私の方。
準決勝のレギュレーションに、足をすくわれる形となった。最初にくじを引いて、当たりの方が先攻となり、数ある選択肢の中から、最初の食材を選ぶことができる。そして、そのラウンドでの敗者が、次のラウンドの食材を選ぶことができる。その次も同様だ。当たりを引いた私は、最初にラーメンを選んだ。その勝負に敗れた私は、今度はケーキを選択した。そこで私が巻き返して――選択権は、対戦相手に。そこで、全てが決まってしまった。
相手が選んだのは、ステーキだった。
肉を。
忌々しい肉を。
好き嫌いのない私が、唯一口にできない弱点食材である肉を――相手は、選択したのだ。
僅かな量だったら、勢い任せに呑み込んでしまうことも可能だ。だけど、ステーキでは――この、肉塊相手では、それも叶わない。
食べられない。
絶対に、食べられない。
脂汗が滲む。
体が、震える。
すでに、相手は一皿目を完食している。先のラウンドで食べたラーメンとケーキ、そしてがぶ飲みした水が堪えているのか、少しだけ顔をしかめているが――私は、それの比ではない。
膝を握りしめ、目の前に置かれたステーキ皿を凝視する。
肉。
血。
――赤。
様々な光景がフラッシュバックで蘇る。
無理だ。
私には、食べられない。
粘性の高い汗を不快に思いながら、ただ固まっていることしか、その時の私にはできなかった……。