幕間 1
そのとき、たしかに世界はかがいていた。
おひさまがあたたかい。
かぜがやわらかい。
あまりの気持ちよさに、ぼくは少し眠くなる。
「……いい子にしてるんだぞ」
ぼくをかかえた『せんせい』が、ちいさな声でそういう。
だけど、その時のぼくは言葉の意味なんてわからない。
『せんせい』はそれっきりだまりこんで、スタスタと建物の中をすすんでいく。まどが多い。とてもおおきな建物だ。ぼくの家とは大違い。やがて目的の場所についたらしく、『せんせい』はぼくをゆかにおく。
「あるきなさい。みんなに紹介するから」
ぼくはあるきはじめる。でも、『みんな』って誰だろう。答えはすぐに分かった。目の前にあった扉を引いて、『せんせい』は中に入っていく。ぼくも、ペタペタとついていく。
ゆかがつめたくて、すこしきもちいい。
部屋の中には、たくさんの人間がいた。
人間の、こどもだ。
みんな、目を丸くして、ぼくのことを見つめている。
これはあとで知ったことだけど、ここは『がっこう』と言って、おなじ年頃のこどもたちが集まるところらしい。そんなところに、なんでぼくがいるんだろう……。
「はい、静かに――」
ポンポンと手をたたく『せんせい』。
――みんなに新しいトモダチを紹介しよう――
よく通る声でそういう『せんせい』を、ぼくはどこかふしぎそうな顔でみあげていた。