第七章 4 宿木明日香
マスターの話は驚きの連続だった。
普段食べているブタは、元々『くれなひ』と呼ばれていた存在で、自分たちと同じ『ヒト』である――。
最初は信じ難かったが、マスターの話を聞いているうちに、案外すんなりと受け入れてしまっている自分がいることに驚く。
言われてみれば確かに、ブタと人間はよく似ている。狭く不衛生な場所で飼育され、常に泥まみれになっているので気付きにくいが、骨格や四肢の感じなどは人間そっくりだ。二足歩行するモノもいると聞くし、ブタが人語を解するという話も有名だ。
それもその筈である。
彼らは、ヒトそのものだったのだ。
ただ、人間でないというだけで。
「人間にしようとしたって――ああ、それがさっきの話か」
「そう。落とし穴に落ちた女子中学生、ずっと身元が割れなかったでしょう? いくら探しても見つからない筈だよ。そんな中学生、最初から存在しなかったんだからね」
後方、本間刑事が鼻で笑っている。人を馬鹿にするのではなく、自嘲の色の濃い笑い方だ。
「そりゃ、見つからない筈だわ。まさか、ブタが人間に化けてるだなんて、夢にも思わないもの」
「そうでしょうね。皆が女子中学生だと思っていたのは、『オハラ』と言う名の雌ブタ――つまり、センターから逃げ出した、もう一頭の脱走ブタだったと言う訳です。そうすると、当然誰もがある疑問を抱く筈です。オハラは、何故あんな格好をしていたのか? 誰が、何のために――と」
当然だ。
伊達や酔狂でやるには、あまりにも手が込んでいる。
「ではここからは、時系列に沿って、順を追って話そうか。所々、僕の想像も入っているし、敢えて省略する部分もあるけど、細かい質問は後で受け付けるってことで」
誰も、何も言わない。先程から発言の多い本間刑事も、大鷹も、もちろん私も黙っている。皆、早く真相が知りたいのだ。
「全ては、紅太郎とオハラの脱走から始まった。二頭はすぐに別れ、別々の道を進んでいく。大量の抗生物質と猛暑で判断力を失い凶暴化した紅太郎が、二人の人間を殺め、後に捕獲されたのは皆も知っての通り。一方のオハラは、どうしていたのか。恐らくは、脱走してすぐに、とある人物に拾われたんじゃないかと考えられる。この、とある人物というのがキーマンだ。ここでは仮にXとしようか。幸か不幸か、オハラはXに拾われ、Xの住むアパートへと連れて行かれる。Xは自室でオハラを飼うつもりだったんだね。しかも、ただ飼うだけじゃない。Xは、オハラを人間として育てようと考えていたんだ。しっかりとしつけ、言葉を覚えさせ、コミュニケーションがとれるようにし、人間生活を送れるようにと、Xは最大限の努力をした。精一杯に力を入れて教育すれば、元来ヒトである『くれなひ』は、いつか立派な人間になれる筈だと、Xは確信していたんだ。だから、体をキレイに洗って、服を着せた。伸び放題だった髪もキレイにカットして、黒く染めた。さすがに黒のカラーコンタクトを入れることはできなかっただろうけど、それでも、ほぼ完璧だった。どこからどう見ても、人間の中学生にしか見えない。もっとも、外見を整えたところで中身は伴わないから、外出させる訳にはいかない。だからこそ、服はパジャマをチョイスした。これから長い時間をかけて、Xはオハラを教育していくつもりだったんだろうね。高い知能を持つオハラは、食事やトイレのルールも比較的短時間で覚えただろうし、暑さに弱いという部分は、冷房を常に最大にすることで対処した。取り敢えず問題はない筈――だった。
しかし、悲劇は突然起きる。
例の、事件当日のことだ。
その日は朝から蒸し暑く、午後には雨になると予報されていた。Xはいつも通り戸締まりをして、冷房の設定温度を最大にしたまま家を出る。全てが、いつも通りの筈だった。一つ目の不運は、Xの部屋のエアコンが急に停止したこと。Xのアパートは老朽化が進んでいて、そのせいか、備え付けのエアコンは、連続稼働していると何の前触れもなく停止することが、今までに何度もあったんだ。その場にXがいれば問題はなかったんだけど、生憎とその時は仕事で留守中だった。オハラも、エアコンの使い方までは習っていない。結果、室内は蒸し風呂状態に陥ってしまう。ただでさえ暑さに弱いオハラが、これに耐えられる訳がない。オハラは必死になって部屋を出ようとした。当然、鍵の開け方なんて分からない筈だったんだけど――何かの拍子で窓の鍵が開いてしまう。これ幸いと外に飛び出すオハラ。Xに飼われて以来、一度も外に出なかったオハラは、靴を履くということを知らない。裸足にパジャマという格好だったのはそのせいだ。久々に外の空気を吸ったオハラは、そのままどんどん進んでいく。二つ目の不運は、その時、オハラの鼻が飼料の匂いを嗅ぎつけてしまったことだ。飼料というのは、落とし穴の上に置かれた、ブタをおびき寄せる為に置かれた餌のことだ。不用意に取ろうとすると、ベニヤ板がブタの自重で割れ、穴の底にまっさかさまとなる。オハラはそんなこと知らないから、匂いに誘われるまま、真っすぐにそちらへと向かってしまう。駐車場を横切り、フェンスの穴をくぐり、三メートルの塀を飛び降り、路地を進んで、ね。明日香が見たのは、その時のオハラだったんじゃないかな?」
急に振られて吃驚したが、言われた瞬間に、あの時の彼女の様子を思い出した。どことなく足取りがふらついていたのは、三メートルもの落差を裸足で飛び降り、足が痺れていたからか――それとも、暑さで頭が朦朧としたいたせいか。
「そこから先は、説明するまでもないね。穴の周囲には注意を促す看板が立っているけど、ブタのオハラにその意味が分かる訳がない。オハラは膝を使って一メートルの段差を乗り越え、四つん這いの形で飼料に手を伸ばした。その瞬間に板が割れ、上半身から逆さまの格好で穴に落ちていった。その時に首を折ってしまったのが、三つ目にして、最大の不運だ。
オハラは、死んだ。
その直後、板の割れる音に驚いたマリアちゃんや刑事さんたちが現場に駆けつけて、死体は露見する。僕たちが穴の所に集まったのはその直後だったんだけど――死体の目が閉じていたのは、皮肉な偶然だった。その時、赤い瞳が確認できていれば、もう少し早く気付くこともできたんだけどね」
「最初から、犯人なんていなかった……」
「そうさ。これは、事故だ。いや、ブタ捕獲用の落とし穴にブタが落ちたんだから、むしろ順当な結果と言えるかもしれない」
「じゃあ、あの死体消失は!? その、オハラってブタの死体は、どこに消えたのよ!?」
「先走らないで明日香。話はまだ終わってない。むしろ、ここからが核心部分なんだから」
たしなめられて、私は大人しく口を噤む。
「オハラが死んで、一番驚いたのはX自身だ。訳が分からなかっただろうね。だけど、刑事が現場にいる以上、下手に動くこともできない。皆と一緒に店に戻ってくるしかなかった。店に戻った後で、Xは自分がマズい状況に晒されていることに気が付く。警察が調べれば、あの死体が脱走ブタのオハラであることは簡単に分かってしまうだろう。もしかしたら、自分が部屋で隠れて飼っていたこともバレてしまうかもしれない。脱走したブタだと知っていて、センターに無許可で飼うのがどれほどの罪になるかなんて知らないけど、よろしくない状況であることは明らかだ。それに――やはり、Xはオハラを人間にしたかったんだ。すでに死んでしまっても、その気持ちは変わらなかった」
「……よく分かんない。死んだものは、どうしようもないでしょ?」
「Xにとっては、そうじゃなかったんだ。Xはせめて、オハラを人間として――人間と認識されたまま――死なせたかった。幸い、死体を見た皆は、オハラを女子中学生だと思い込んでいる。だけど、警察が来てちゃんと調べられたら、全てはおじゃんだ。オハラがブタであると判明し、オハラの死体はブタのそれとして処分されてしまう。どうしても、それだけは嫌だった。だけど、自分は身動きがとれない。そこでXは、皆の目を盗んで、ある人物に連絡をとった。ここでは、仮にその人物をYとしよう。XがYに頼んだのは、オハラの死体隠しだった。二人は親しい間柄で、Xが脱走ブタを隠れて飼っていたのを――人間の格好をさせていたのを含めて――Yは知っていたんだ。時間がなくてXはYに必要最低限のことしか伝えられなかったんだけど、取り敢えずそれでYは事情を把握した。オハラの死体が見つかれば無許可で飼っていたXに司法の手が伸びる――Yは、そう判断した。幸い、その時はすでに大雨が降っていて、表に人通りはなかった。Yは細心の注意を払いながらオハラの死体を穴から引き上げ、自分の店へと運び込んだ。こうして、思いの外あっけなく、死体隠しは成功する。だけど、まだ全てが終わった訳じゃない。死体処理の問題がある。死体が消えれば大騒ぎになるのは目に見えていし、それで疑われるのは、穴から至近距離にある自分の店だ。その前に、どうにかして目の前の死体を消してしまわなければならなかった。Yはしばらく考えたのだけど、そこで妙案を思いつく。目の前にあるのはブタの死体で、Yにはブタを解体する技術があり、Yの店にはブタを解体する設備がある。となれば、やることは一つだけだった。Yはオハラを解体し、調理肉に加工した。その肉を、大食いシミュレーションに提供したんだ。Yはね――」
「もういいよ」
マスターの語りを中断する声。
新山だ。
「もう、XだのYだの、伏せる意味ないだろ。そこまで言えば、分からない人間なんていないよ」
新山の言う通りだった。ここまで聞けば、XやYが誰なのかは明白だ。と言うか、私はかなり序盤で、Xが誰なのか分かってしまっていたのだけれど。
「やっぱり、礼子さん――なの?」
Xは礼子で、Yは新山。
「そうだね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それ、全部マスターの想像だろ?」
すかさず、健太が口を挟む。
「見てきたようにベラベラ喋ってるけどさ、違う可能性だってある訳じゃんか」
「健太は、マスターが間違ってるって言いたいの?」
「そうじゃねェよ。そうじゃなくて、もっとこう、慎重に検討した方がいいんじゃないかって言いたいんだよ。その、違う可能性をさ」
それは、可能性と言うより楽観的観測だろう。きっと健太は、二人を犯人にしたくないのだ。
「そりゃ、私だって二人じゃないって信じたいけど――やっぱり無理だって」
「何でだよ」
「今の話聞いて、私なりに考えてみたの。いい? 刑事さんが現場を離れた僅かな時間にあの死体を隠せて、かつすぐに処理することができたのは、やっぱり新山さんしかいないのよ。でも、オハラの歩いてきた方向から考えると、飼われていたのは新山さんの家じゃなく、塀の上、駐車場付近の場所としか考えられない。その辺りに住んでいた人が、オハラの飼い主。その飼い主が新山さんに連絡をして、死体を隠すように指示したんだけど――そんなこと、タイミング的に、あの時死体を見つけたメンバーじゃないと無理。塀上の駐車場近くの古いアパートに住んでて、あの時死体を見たメンバーで、新山さんと親しい間柄にあって――って、その全ての条件を満たせるのは、礼子さんしかいないのよ」
「さすがは明日香だねー。実に理路整然としている」
誉めているのだろうが、マスターが言うと皮肉にしか聞こえない。
「そうかァ……オレもずっと、不思議に思ってたんだよなァ」
場に馴染まない間延びした声で、大鷹が発言する。
「ん、会長、何か思い出した?」
「いや、死体見た時さ、オレとか明日香とかは、『ひどい』だの『死んでるのか』だの、まあ、割と普通なこと言ってた訳じゃん。でもさ、礼子ちゃんだけ、『何で……』って言ってたんだよ。何が『何で』なのかずっと分かンなかったんだけど、今の話聞いて納得したわ。そりゃ、部屋で待ってる筈の飼いブタが穴落ちて死んでたら、『何で』とも言いたくなるよなァ」
普段は馬鹿で鈍感なくせに、ごく稀に鋭い所を見せるから、この男は侮れない。
「ちょっと待てっての! 何だよ、みんなもう納得したのかよ!? 信じられないでいるの、俺だけか!?」
尚も健太がごねている。きっと、理屈どうこうでは納得できないのだろう。
「残念だけど、今の話は事実だよ」
「マスターは黙ってろよ! 俺、本人の口から聞くまでは信じねェからな!」
立ち上がって吠える健太。顔が赤い。
「本人の口からも、何もさ――僕は、今の話を新山さん自身に聞いたんだよ?」
「……え?」
「僕が調べたこと、考えたことを全て話す代わりに、新山さんは本当のことを話してって、僕は条件を出したんだ。新山さん、自分に分かっていることは全部話してくれたよ? 今の話は、それに明日香から聞いた話を加味して、礼子さん視点に変換したものだ。細かい点は想像で補っているけど、大筋は事実通りだよ?」
健太は、すがるような目付きで新山を見る。
「悪い。マスターの言う通りだ」
新山は申し訳なさそうに、そう言う。
「――そんな……」
へたへたと、気が抜けたように椅子に座る健太。関係ないのに、何だかこちらが悪いような気になってくる。
「新山さん、俺は犯人じゃないって――信じてくれって――あの時、おれにそう言ったじゃん……。あれ、嘘だったのかよ……」
「いや、それは……」
「嘘じゃないよ」
新山が何か言いかけるが、それを手で制してマスターが口を開く。ここは自分に任せておけ、ということだろう。
「新山さんは、嘘なんて言ってない。いい? あの時、新山さんは、『俺は誰も殺してないし、人間の死体を解体したりもしていない』って言ったんだよ? 嘘なんて吐いてないじゃない。新山さんは、事故死したオハラの死体を隠し、それを解体しただけだ。ただ、ブタを解体しただけにすぎないんだよ」
「嘘言ってなければいいってもんでもないだろ! 何だよ、それ。あんな言い方したら、事件には関わってないものかと思うだろ! 何が、『あの肉うまかっただろ?』だよ! 平気な顔して、よくそんなこと言えたな!」
顔を赤くしたまま、健太は吐き捨てるように言う。きっと、裏切られたような気持ちになっているのだろう。
「……どうも、認識違いがあるようだね……」
「認識違いって何だよ」
「新山さんはね、大それたことをして涼しい顔をしていられる程、器用でも厚顔無恥でもないよ。嘘も吐けないし、周囲の人間のことも、本当に大切に思っている。誠実と実直を絵に描いたような人間なんだ」
よくもまあ、本人を目の前にして、そんなことが言えるものだ。照れているのか、新山は頬を掻きながら俯いている。
「要するに、裏表がないんだよ。裏表がないってことは、言ったことはそのまま額面通りに受け取るべきってことだ。新山さんはオハラを殺していないし、人間を解体したりもしていない。勝手に死んだブタを解体して、調理肉に加工したことは決して誉められたことではなかったけど――それでも、新山さんには、やましい部分は全くなかったんだよ。ただ、事実と異なることで容疑をかけられそうになったから、そうではないと真っ向から否定した。それだけのことなんだ」
「だったら、最初から本当のことを――言えないのか」
言ってる途中で気が付いたらしい。
「そう、新山さんは、決して本当のことを言う訳にはいかなかった。話せば、礼子ちゃんに累が及ぶ。肝心な部分を黙っていたのは、礼子ちゃんを庇うためだったんだよ」
「礼子さんを、庇うために……」
「新山さん、保身で動いたことなんて一度もないんだよ? 全ては、礼子ちゃんを庇うための行動だ。健太を欺こうなんて、微塵も思ってなかった――だから、そんな風に言うのはやめてほしいな」
「……分かった」
「私からも、一ついい?」健太が落ち着いたところで、口を挟む。
「明日香も、何か気になるの?」
「うん――新山さん、そのオハラってブタを解体して、大鷹さんや健太に食べさせたって言ったよね? まあ、解体自体は死体処理に必要なプロセスだし、新山さんはオハラがブタだって分かってた訳だから、解体するのにも抵抗がなかったってのは分かるんだけど――何でそれを、大食いシミュレーションに提供したの? 別に、ブタはブタなんだから、自分の店に置いておいたって問題はなかったと思うんだけど」
「……新山さん、自分で話しますか?」
ここは本人の口から言わせた方がいいと判断したのだろう。新山は小さく頷き、久しぶりにまともな言葉を喋る。
「あれは――本当に、上質な肉だったんだ。解体して驚いた。一応俺もプロだから、肉の良し悪しは見た目で大体分かる。あれは、愛情たっぷりに育てられたブタだった。短い期間ではあったけど、礼子は餌に相当気を使ったんだなって思ったよ。最初は、死んだブタを処理するために始めた解体作業だったんだが――このまま廃棄したんじゃ、あまりに勿体無いと思うようになっていた。そんなのは、ブタ肉への冒涜だ。早く、誰かに食べてもらいたかった。この上質なブタ肉を、味わってほしかったんだ。気がついたら、シミュレーション用に仕入れておいた肉をい押しやって、オハラの肉を出していた……」
「……つまり、オハラの肉があまりに美味しそうだったから、それで、皆に食べてもらいたかったってだけ!?」
「仕事熱心なんだよ。根っからの肉バカ、ともいうけどね」
笑いながら言うマスターだったが――その笑顔が、瞬時に引っ込んでいく。
「だけど、これが礼子さんとの間に亀裂を生むことになる。ここもまた、認識違いだ。さっきも言ったけど、彼女はオハラを人間にしたかったんだ。不運が重なって事故死したとしても、せめて、人間として死なせたかった。そのために、新山さんに死体を隠すのをお願いしたんだ。保身に関しては二の次さ。でも、新山さんにそんなことは伝わらなかった。ただ、隠れてブタを飼っていたのが露見したらマズいという理由だけで死体を隠すのだと解釈していた。だから、処分しやすいように解体して、その肉を会長たちに食べさせたりしたんだ。つまり、新山さんはオハラにブタとしての最期を与えた訳だね。礼子ちゃんの意志とは、まるで正反対だ。完全なすれ違いと言える。礼子ちゃんはそのことに関して珍しく怒りを露わにしたが、新山さんは彼女が何をそんなに怒ってるか、理解できない。礼子ちゃんがオハラに人間の格好をさせているのは知ってたけど、それはファッションか何かだと思っていたんだね。まさか、本気でブタを人間にしようなんて、普通は思わないから。……溝は埋まることなく、二人は次第にギクシャクしていく――」
横目で新山を窺う。彼はいつものように真っ直ぐにマスターを見つめ、真剣に話を聞いている。恐らく、彼が本当に知りたいのはこの後のことなのだろう。
礼子は。
話が始まった辺りから、顔を俯けたまま微動だにしない。オハラの話になっても、礼子の名前が出てきてもまるで無反応だ。
オハラを人間にしようという行動もそうだが――まるで、何を考えているか分からない。
「そして――二つ目の悲劇が、起こる」