表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/53

幕間 16

 何もかも変わってしまった。

 この町も、海も、白い家も、おばあちゃんも。

 前は、みんな大好きだったのに。

 今では全てがよそよそしい感じがする。

 おばあちゃんは活動が忙しいらしくて、最近は家を空けることも多い。まあ、顔を合わせたところでケンカばかりだし、好都合と言えばそうなんだけど。

 別に、おばあちゃんがいなくたって、寂しくなんかない。あたしにはポリーがいる。遠く離れてしまったけど、いつだって心は一緒。一生の親友だ。

 それに、新しい友達もできた。

 あたしが窓辺でポリーの手紙を読んでいると、ひょっこり膝に乗ってくる。ちょっと重いけど、温かくて気持ちがいい。頭をなでてあげると、気持ちよさそうに目を細める。その仕草が可愛くて仕方がない。

 彼女の名前は、マーガレット。

 どこからかおばあちゃんが拾ってきた、雌の子ブタだ。名前は、あたしがつけた。好きな花が、その由来だ。

 彼女が家に来た時は、戸惑ったし、正直少し嫌だった。おばあちゃんがあたしに厳しいのも、友達が出来ないのも、全部ブタのせいだからだ。その頃のあたしはいつもイライラしていて、その矛先はブタに関わる全ての人間、そしてブタ自身にも向けられていた。

 それなのに。

 マーガレットは、あたしに懐いてくれた。ブタは知能が高い動物だと言うけれど、本当にその通りで――何だか、こちらの気持ちを読んでいるかのよう。あたしの機嫌が悪いときは近寄ってこないし、逆に、少し寂しい時には、こうしてすり寄ってきてくれる。

 頑なだったあたしの心も、だいぶときほぐれたように思う。

 今では、ポリーの次に仲のいい友達だ。

 マーガレットが、首元のペンダントにちょっかいを出している。

「ん? これが気になるの?」

 外して顔の前に掲げると、マーガレットは興味深そうに覗き込んでいる。

「ごめんね、これはあげられないんだ」

 こった装飾のロザリオペンダントは、ママの形見。あたしの宝物だ。いくらマーガレットでも、あげる訳にはいかない。

「代わりに、いいモノあげる」

 そう言って、キッチンから昨日焼いたクッキーを持って来る。床に置くと、マーガレットは嬉しそうにそれを平らげる。ここまで美味しそうに食べてくれるなら、焼いた甲斐もあるというモノだ。

「たっくさんあるからね。いっぱい食べな」

 顔の食べカスをとってあげながらそう言うと、マーガレットはコクコクと頷いたように見えた。本当に賢い子だ。あたしはポリーの手紙をたたみ、再びマーガレットの頭に手をやる。

 あたしは、この町が嫌い。

 ブタにばかりかまけるおばあちゃんも、ブタに頼って生活しているこの町の大人たちも、あたしを仲間はずれにする中学のみんなも、みんな、みんな大嫌い。

 あたしが学校に行かなくなってから、数ヶ月がたつ。

 だけど、今は全てがどうでもいい。

 あたしは一人じゃない。

 親身になって相談に乗ってくれるポリーがいる。

 懐いてすり寄ってくるマーガレットがいる。

 それで、それだけで、あたしは充分だった。

 他は、何もいらない。

 学校も、必要ない。

 あたしは、満たされていた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ