幕間 11
何だか、嫌な臭いがする。
それに何だか薄暗い。
空調だけはしっかり動いていて、暑くも寒くもないのだけど――ブタは暑さに弱いらしい――空気は、よどんでいる気がした。
ここは、クレアイの真ん中にある食肉センター。
今日はおばあちゃんに連れられて、ここに見学に来たのだ。
もちろん、あたしの意思ではない。おばあちゃんに、むりやり連れてこられた、と言った方が正確かもしれない。活動をするうえで、この施設は避けては通れない、『あくのちゅうすう』らしい。正直、あたしはあまり興味がないんだけれど……。
来て早々、おばあちゃんはセンターの偉い人と難しい話を始めてしまう。あたしは係のおねえさんに案内されてセンターを見て回ることになったのだけど、ちょっと回ったら、もう飽きてしまった。
何せ、どこまで行っても、ブタ、ブタ、ブタだ。たくさんのブタが狭い場所に泥だらけになって押し込められていて、見ているだけで気分が悪くなる。
それに、ブタの大群を見ていると目が疲れてくる。最後のほうは、ただ地面だけ見て歩いていた気がする。
何だか、ものすごく疲れた。
海辺の家に戻ると、すぐにシャワーを浴びて、新しい服に着替える。それでもまだ、少し臭いが残っている気がする。
おばあちゃんは今日見たことを原稿にまとめないといけないとか何とかで、さっさと書斎に引っ込んでしまう。また、あたしは一人だ。もう慣れたけど。
郵便受けを探ると、何通か手紙が来ていた。当たり前だけど、ほとんどおばあちゃん宛てだ。きっと、いつもの黒い服の人たちからなんだろう。
だけど、その中の一通にあたし宛てのモノを見つけ、一気にテンションが高くなる。裏を返すと、『AIROK』という文字が目に飛び込んでくる。『AIROK』はポリーのファミリーネームだ。あたしは喜んで二階にある自分の部屋に行き、親友からの手紙を開封する。
ポリーからの手紙には、様々な近況報告が綴られていた。家族でハイキングに行ったこと、クラスの合同発表で賞をとったこと、親戚のお姉さんの結婚式に出るために、初めてドレスを着たこと――読んでてうらやましくなってしまう。
こっちは、休みの日にブタ小屋に行っているって言うのに……。 何だか、悲しくなる。
ポリーは、頭が良くて活発な子だ。いつでも、何でも相談事に乗ってくれる。いっそのこと、今あたしが思ってることやら何やら、全部相談してしまおうかとも思う。遠く離れたところに住んでいるポリーに何かできるとも思わないけど、誰かに聞いてほしかった。
文章を書くのは苦手だけど、手紙なら別だ。便箋をめくってペンをとると、スラスラと言葉が浮かんでくる。
あたしは学習机の上に飾られたマーガレットの匂いをかぎながら、いつしか口笛を吹き始めていた。