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第三章 5 本間雫

 私は途方に暮れていた。

 いや、私だけではない。連絡を受けて現場に駆けつけた署の人間たちも、そうだ。詳しい説明を求められたが、その答えを一番望んでいるのは私自身だった。とにかく、訳が分からない。

 消えた死体を見つけ出すべく、警察は周辺一帯の捜索を行った――が、死体は見つからない。聞き込みも徹底して行われたが、こちらもめぼしい情報が集まらないまま終わる。肝心の遺体がないから司法解剖もできず、また、僅かに残っていたかもしれない現場の遺留品は、この雨で全て流されてしまった。

 せめて被害者の身元割り出しくらいはしておきたいと思って照会を急いだが、この一ヶ月、呉藍町及びその周辺で行方不明になった女子中学生などいない、との結果。似顔絵を作成して再び聞き込むが、それで身元が割れれば最初から苦労しない。

 まさに、八方塞がりだった。

「やっぱり、あの二人のうちのどちらかだと思うんですよね……」

 駅南部、海沿いの工場地帯にて。

 とっくに日は暮れ、辺りは暗闇と静寂に包まれている。夜になっても、蒸し暑さは変わらない。雨がすでにあがっていることだけが、唯一の救いだろうか。

 二人はこの地域で身元割り出しのための聞き込みを終え――全て空振りに終わったが――一旦、署に戻るところだった。街灯によって作り出された長い影が、物悲しさを増長させる。会話の内容は、当然、事件に関することだ。

「二人って、花屋と肉屋のこと?」

「だってそれ以外に考えられないじゃないですか。不可能ですよ」

 勢い込む滝山。一日歩きっぱなしだと言うのに――刑事なら当たり前なのだが――随分と、元気だ。若さって素晴らしい。

「それとも、先輩には何か別の考えがあるってんですか!?」

「ないない。ないわよ。だから、あまり突っかからないで」

 前言撤回。元気なのではなく、ただ単にイラついているだけのようだ。素直で真面目が取り柄の滝山が、こんな態度をとるのも珍しい。恐らく、訳の分からないことだらけで疲弊しているのだろう。

「路地の奥は突き当たり、入り口では人が見てて、それで人も車も出入りしてないって言うなら、路地にいた人間が犯人に決まってるじゃないですか。どっちでもいいから、引っ張って締め上げて吐かせちゃいましょうよ」

「無茶苦茶言うね……」

 本格的に疲れているらしい。署に着いたら一息入れさせよう。

 とは言え、滝山の言うことにも――最後の下りは無視するとして――一理あるのだ。

 犯行時にあの路地内にいたのは、確認できるだけで九名。

 私、滝山の二人。

 喫茶宿木のウェイトレスで、第一発見者のマリア・ヨーク。

 同じく喫茶宿木のマスター、宿木翔。

 その妹、宿木明日香。

 宿木の友人で常連客の大鷹大輔。

 ウェイトレスの高崎礼子。

 この七人に関しては、犯行が不可能であることが分かっている。お互いの目があるし、タイミング的にもシビアだからだ。

 問題は、路地の奥に店舗兼住居を構える、肉の新山とフラワーショップマツオカ――それぞれの店主たちである。

 まず、肉の新山店主の、新山守。店は定休日、同居している家族は昨日から温泉旅行に出かけていて、不在。犯行時刻は店で雑用をしていたと言うが、それを証明できる人間はいない。新山自身は、真面目で実直そうな好青年という印象だったが――犯行に関与しているかどうかは、まだ何とも言えない。

 一方、フラワーショップマツオカの若き店主、松岡健太はどうか。こちらも店は定休日で、母親は入院している父親の見舞いに行っていた、とのこと。本人はその時昼寝をしていたと言っているが、当然のことながら証人はなし。本人の印象は――受け答えはしっかりしていて、人当たりが悪いわけではないが、ブツブツと独り言が多いのが気になった。こちらも、積極的に怪しいと思える部分は見られなかった。

 現実的に考えると、路地に面した建物の中にいた二人にしか、犯行は不可能なのだが――。

「動機がないのよねぇ……」

 遠くの街頭を見ながら、私は呟く。滝山の反応は早かった。

「それをこれから調べるんじゃないですか。被害者の身元をさっさと割り出して、背後の人間関係を――」

「そうじゃなくて、ね。犯人は、何故あんなことをしたのかって、その理由が分からないのよ、私には」

「あんなこと?」

「穴に突き落として、発見されたその後に死体を隠す――何故、そんなことをしたんだろう」

「だから、被害者の身元を隠すためじゃないですか? あるいは、遺体に犯人を特定する何かが残ってたのかもしれません。毛髪、肉片、血液、体液――そういうのを司法解剖で明らかにされるのを恐れた、とか」

「だったら、何であんな殺害方法を選んじゃったのかな。それも、商店街の路地なんかで。定休日の店も多かったけど、居酒屋や喫茶店みたいに、普通に営業してる店も多かったんだよ?」

「もしかしたら、過失だったのかもしれませんね。殺すつもりはなかった。だけど、結果として相手を死なせてしまった。しかも、運悪く近くに人がいて、犯人は慌てて自分の店舗兼住居の建物に身を隠した。それで、僕たち全員が死体の側を離れるのを見計らって、死体を隠した――ってとこじゃないですか」

 実際、私もほとんど同じ考えだった。敢えて分からないふりをして後輩に質問をぶつけ、自分の考えを整理したのだ。

「一応、筋は通っているけど……」

「けど、何ですか」

「身元を隠すため、科学捜査で犯人を特定する何かが明らかになるのを防ぐため、死体を隠した――それはいい。まあ、分かる。でもさ、簡単に死体を隠すって言うけど、それって自分の店な訳でしょう? あれだけ周辺を捜索したのに何も出てこなかったんだから、必然的に隠し場所はそこしかなくなるものね。でも、これって物凄くリスキーなことだと思うの。この季節、死体はすぐに腐り始める。冷蔵庫や冷凍庫を使ったところで、家族の目もある。完全に隠し通すのは難しい。だから、一刻も早く処分しなくちゃいけない。犯人は、どうするつもりなんだろうね? ……いえ、犯人はどうしたんだろうね、って言った方がいいのかな、もう」

「……まあ、山に埋める、とか……」

「普通はね。山に運んで埋めるとか、重りつけて海に沈めるとか、そんなとこだと思う。だけど、こんな風に警察官がウロウロしてる中で、そんなことができるかな。少なくとも、私だったらそんな危なっかしいことはしないけど」

「それじゃあ、バラバラにするとか――」

「そうだね。そのくらいのことはすると思う。だけど、いくらバラバラに解体したって、結局は処分しなきゃいけない訳よ。体一つ捨てに行くよりはマシだけど、リスキーなことに変わりはない。第一、人体を解体するなんて、相当な労力だよ? 並大抵のことじゃない。それができる人間も、場所も、限られてくるんじゃないかな――」

 私の声が、湿った夜気に霧散していく。返事がないので気になって振り向くと、滝山は足を止め、呆けたように口を開けていた。

「……どうしたの?」

「肉屋ですよ! まさに肉屋じゃないですか! あの新山って男、自分の店で遺体を解体したんじゃないですか!? やっぱり、あの男が犯人だったんですよ!」

 今日の滝山はどうにも暴走しがちだ。どうして、そう安直な結論に飛びつくのだろう。

「あのね、肉屋だからって、死体解体が得意な訳じゃないんだよ? ブタを解体するのは食肉センターの仕事だし……」

「あの男は、若い頃に食肉センターで研修してるんですよ! ブタ一匹解体するのだって、少し時間をかければ一人でできた筈です」

「随分と詳しいんだね……」

「あの商店街、毎年この時期に納涼祭をやるんですよ。で、何かしらのイベントが開催されるんですけど、去年は肉の新山主催で、ブタの解体ショーってのをやってたんです」

 頭が痛くなってきた。

「……何ソレ」

「ブタを生きたまま解体して、最終的に観客全員にポークステーキを振る舞うっていうイベントです」

 何だ、その胸糞悪いイベントは。ただただ、酷いという感想しか出てこない。

「俺も行ったんですけどね」

「行ったんだ!?」

美味(うま)かったですよ」

 悪びれることなく、ケロリとした顔で言ってのける。私には、その感性が理解できない。

「――で?」

「ああ、だから、ブタを丸ごと解体できるんだから、人間だってできるでしょ? あの男、俺たちが捜索に必死になってるそのすぐ横で、死体を解体してたんですよ!」

「ちょっと待って」頭痛が酷くなってきた。「先走らないで」

「でも、そう考えれば全ての辻褄が合うじゃないですか!」

「合わないわよ……。ちょっと冷静になって。確かに、あの人には動物を解体するスキルがあったのかもしれない。百歩譲って、死体を解体したんだと仮定しましょう。でも、その後どうするのよ? 肉は肉として残ったままでしょ? 燃やすとか溶かすって手もあるけど、あの店にはそんな設備はない。結局、処分するしかないんじゃないの」

「処分すればいいじゃないですか。肉屋が肉を廃棄したって、誰も怪しみませんよ」

「怪しんでるじゃない。現に今、私たちが。さっきも言ったけど、私たち警官がウロウロしてる中、わざわざ死体を捨てに行くなんて、相当にリスキーな賭けだよ? 犯人が、そんな危ない橋を渡るとは思えない」

「じゃあ多分、店にまだあるんですよ。解体した肉が。で、これをどうやって処分しようかって、考えてるとこなんじゃないですか?」

「仮定って言ったでしょ。事実とごっちゃにしないで……」

 滝山の話は説としては面白かったが、ただそれだけだ。肉屋が人間の死体を解体して冷蔵庫に保存しているなんて話は、あまりにも突飛すぎる。

 しかし――私は考える。

 もしその突飛な話が事実だとすると、どうなるだろうか?

 ポイントとなるのは、やはり処理の方法である。焼却するには、それ相応の設備が必要だ。かと言って、何の工夫もなくゴミ袋に入れて廃棄するとは思えない。

 肉屋が肉を処理する方法――いや、『処理』と考えるから分からなくなるのかもしれない。肉屋なのだ。肉屋とは、肉を売る場所だ。

 肉――売却――販売。

 いや。いやいやいや。ない。それはない。

 どこのB級ホラーだ。殺した人間を解体して、それを肉として売るだなんて、滝山のことを言えないではないか。

 私は慌てて自分の思い付きを振り払う。馬鹿な考えだ。忘れよう。

 ――本当に馬鹿な考えか?

 捨てようとした考えが、しつこく頭に纏わりつく。

 もし、その考えが正しかったら、どうする?

 人肉が売れてしまってからでは遅い。取り返しのつかないことになる。間違いなら間違いで、せめてその可能性を潰しておくべきではないのか?

「……肉屋は、今日は定休日だった筈よね」

「ですね」

 なら慌てることはないか。明日の朝イチにでも訪ねればいい。

「ただ、今日はあの喫茶店で、納涼祭でやるイベントのシミュレーションをやるんだって、あのマスターに聞きましたよ。新山は、そのイベントで使う肉を提供するんだとか」

「イベントって何よ」

「大食い大会だそうです」

 ――眩暈がした。

「常連客に大鷹ってのがいたじゃないですか。あれが結構有名なフードファイターらしくって、それで決まったそうです」

 一瞬、気が遠くなって、僅かにたたらを踏む。

 あの連中、まだそんなことをやっているのか。

 頭に血が上る。呼吸が荒くなる。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 それより、大食い大会に肉を提供するということは、まさか――

「夕方の六時に開始って言ってましたから、まさに今、やってる最中なんじゃないですかね」

「行こう」

 私は、踵を返した。


 懐かしい――それでいて忌々しい匂いで満ちていた。

 焼けたブタ肉の匂いだ。

 今日二度目の来店となる喫茶宿木。すでに、時刻は夜の七時を回っていた。店内には、見覚えのある商店主達が固まって立っていて、最前列には新山の姿も確認できる。

 カウンターの前に移動した二つのテーブルには、大鷹と、そして何故か花屋の松岡健太が並んで座っている。もちろん、宿木兄妹やウェイトレスのマリアも揃っている。関係者の中では、唯一高崎礼子の姿だけが見えない。元々早番らしいし、事情聴取の時も相当に具合が悪そうだったので、恐らく今は自宅で休んでいるのだろう。

 その場にいる全員が、私に注目していた。

 あんな登場の仕方をしたのだから当然だろう。我ながら、冷静さを欠いていたかもしれない。できるだけ理性的になるように努めながら、私はこの大食い大会で使用されたステーキ肉の提出を新山と宿木に願い出る。

「あと、お店にあるお肉も、少し調べさせて頂きたいのですが」

 大食い大会に出さず、そのまま店の冷蔵庫に寝させてある可能性も考えられる。そちらの可能性も潰しておく必要がある。

「ウチの肉を……?」

 これ以上ない、という程に怪訝そうな顔をする新山。本気で困惑しているのか、そういう芝居なのかは、判断ができない。

「ちょっと待てよ。何で警察が肉なんか持ってくんだよ」

 十三皿ものステーキを完食した大鷹が、平素と変わらないフラットな口調で尋ねてくる。恐らく一般人代表で選ばれたであろう松岡は、たった四皿で顔面蒼白だと言うのに――相変わらず、規格外の男である。

「いえ、その質問にこの場で答えるのは、ちょっと」

「食べたいのか?」

 こめかみに青筋が走る。馬鹿か、こいつは。

「捜査の一環です。任意ですので、無理にとは言いませんが」

 大鷹など無視して、真っ直ぐに新山を見る。

「はあ……まあ、いいですけど」

 答える新山は、やはり困惑しているように見える。

「何のためなのか、聞いちゃ駄目なんですか?」

「後で、必ず説明します。今、この場では――」

「刑事さんは、愉快な想像をしてるみたいですねー」

 私の声にかぶせるようにして、宿木が発言する。いつもの、全てを見透かしたような笑顔――思わず、奥歯を強く噛みしめていた。

「愉快な想像って?」

 今まで黙っていた宿木の妹が、兄に尋ねる。

「刑事さん達は多分、死体消失の謎に関して、一つの仮説を打ち出したんじゃないかな。隠した死体はすでにバラバラに解体されてて、後は肉塊となったそれを処分するのみ。だけど、警官がウロウロしているこの状況では、例え他のゴミに紛れ込ませたって、気付かれてしまう恐れがある。実際に気付けるかどうかはともかくとして、犯人の気持ちになれば、そこは慎重にならざるを得ないだろうね。かと言って、屋内で燃やしてしまうこともできない。そこで犯人は、バラバラにした死体を、さらに調理肉に加工して、人に食べさせることで処分しようとしたんじゃないか――そんな仮説を、立てたんだよ思うよ?」

 サッ――と、その場にいた全員が引いていくのが分かった。

「幸い、今日のこの場には、キロ単位で肉を処分してくれる人間もいることだし?」

「ゲェェっ……」

 蛙が潰されたような声をあげる大鷹を横目に、宿木は尚も続ける。皆がドン引きしていることなど、重々承知しているだろうに……。こういう、『空気を読んで、敢えて空気を読まない』人間が、一番始末に負えないのだ。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 新山が詰め寄ってくる。至極真っ当な反応だ。

「俺が――肉屋のこの俺が、人肉を食わせたって言うんですか!?」

 真っ直ぐに視線を返したまま、新山は続ける。

「俺が提供したのは、上等なブタ肉なんです。本当に上等な――」

「そうだよ。これ、すっげえいい肉だったぞ?」

 呆けていた大鷹が、新山に加勢する。

「オレも、昔テレビの収録とかで色んなブタ食わされたから分かんだけど、新山さんが出したの、たしかに上等なブタ肉だよ。人の肉なんかじゃねえ。これは、オレが保証する」

「へぇ、『ブタ喰い』の本領発揮ってとこですか」

 もしかしたら、小馬鹿にしているように聞こえたかもしれない。実際、小馬鹿にしているのだけれど。

「真面目な話をしてンだよ。アンタら、本気でそんな風に考えてンのか?」

「私も、本気でこんなことを考えている訳ではありません。単に、可能性の一つというだけです。あくまで念のため、ですので」

「確認でも念のためでも、人肉出してるなんて言われたくないけど――ああ、でもいいですよ。好きなだけ調べてください」

 露骨に不満そうな新山だったが、結局、最後は折れてくれる。

「どうせ、人の肉なんかないんですから。このステーキ肉でも店の肉でも、徹底的に調べてください。それで身の潔白が証明できるのなら、御の字ですよ」

 別に、人肉でなかったからと言って、それが即、無実の証明になる訳ではないのだが……。死体処理に別の方法を用いたのかもしれないし、そもそも死体の隠し場所が別という可能性もある。具体的な例が思い浮かばないのが悔しいところだが……。

 いずれにせよ、話はまとまった。

「何かお気づきの点等あれば、署まで連絡を」という定型の挨拶を済ませ、二人の刑事は肉屋と共に店を出ようとする――が、それを呼び止める人間がいた。

「あの、ちょっといいですか?」宿木の妹だ。「多分、事件とは全然関係ないんでしょうけど、気になってることがあって」

 事件と全然関係ないのならやめてもらいたかったが、そうも言ってられないので、大人しく聞いておくことにする。

「はい、何でしょうか?」

「刑事さん――えっと、本間さんでしたっけ」

「はい」

「私たち、前にどこかで会ってます?」

 吹き出すかと思った。笑いたいのを必死に堪え、「何故そう思うんです?」と逆に聞き返す。

「だって、大鷹さんが『ブタ喰い』って呼ばれてたこと知ってたじゃないですか」

「それはお前、あの番組見て、覚えてただけなんじゃねえの?」

 大鷹が口を挟むが、妹はまだ続ける。

「今日、穴の死体を発見した後、雨が降ってきたじゃないですか。あの時、『大鷹さんも、妹さんも』って、私たちに呼びかけましたよね。大鷹さんだけならまだしも、私が誰かの妹だなんて、どうして分かったんです? その時はまだ、名乗ってすらいなかったのに」

 確かに、各々がちゃんと名乗ったのは、死体消失後の事情聴取が初めてだ。マリア・ヨークや高崎礼子などの名前は、その時に初めて知った。

「と言うか、私自身、本間さんとどこかでお会いしているような気がするんです。既視感(デジヤ・ビユ)とか、そんなんじゃなくて」

 ここまでか。そろそろ、こちらも名乗るタイミングらしい。

「滝山クン、新山さんと先に行ってて。私もすぐに行くから」

 取り敢えず、後輩刑事を退場させる。

「別に、隠してた訳じゃないんだけどね――」

 言いながら、眼鏡を外し、後ろで束ねていた髪を一旦解く。さらに、頭の両端の髪を、両手で束ね持てば――即席のツインテールの完成である。

「……あぁッ!?」

 こちらを指差し、立ち上がる妹。

「やっと、思い出した?」

「……ゲエエエーッ!?」

 頓狂な叫び声を上げながら、大鷹が椅子から転げ落ちる。相当に驚いているのだろう。いや、私だって驚いたのだ。

 物議を醸したあの対決から十年――こんな形で再会するなんて、誰に予想できただろう……?


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