幕間 9
思っていたのと、違った。
外の世界はどこまでも広がっていて、何でも出来るのだと、そう思っていた。
だけど、どうだ。
飼育員の隙をついてセンターから逃げだし、ここまで走ってきたというのに――この気分の悪さは、どうだ。
無数の色と、音と、臭い。
頭がこんがらがる。
意識が朦朧としてくる。
この暑さも問題だった。
太陽の照り付けは容赦なく、日陰に隠れても身を焼かれる気分だ。
気持ちが悪い。
気分が、悪い。
幸いにも、食べ物を探し出すのは、そう苦労しなかった。畑の野菜をかじったり、店の商品を盗み食いすれば、それで何とかなった。ただ、人間にだけは注意しなければならなかった。見つかったら終わりだ。またあの、狭くて汚いセンターの檻に逆戻りだ。
それだけは、絶対に避けたかった。
人目を避け、太陽を避けながら、外の世界をさまよい歩く。
どれくらいの時間がたったのだろう。
どこをどう迷ったのか、俺は小高い丘の上の住宅街に来ていた。まだ夜が明けて間もないが、人間たちが起き出すのは時間の問題だ。こんな所は早く抜けないといけなかったのだが――一歩遅かった。
通りの向こう、年老いた人間がこちらを見ている。
目が、合った。
向こうが何か言うより早く、俺は駆け出し、トップスピードで得意の突進をかましていた。相手は塀に頭を突っ込み、ズルズルと崩れ落ち、そのまま動かなくなる。
突進した瞬間にどこか掴んだのか、相手の手には俺の毛が何本も絡んでいたが――そんなことはどうでもいい。早く、この場を移動しないといけない。朦朧とした意識と最悪な気分を抱えたまま、俺はまた、走り出した。




