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幕間 7

最近、何だか面白くない。

 家も学校もつまらない。

 喧嘩ばかりの親も、聞き分けのないみんなも、どうすることもできないこの私も――ついでに、私の変な苗字も、みんな大嫌い。

 前は、こんなことなかったのに。

 何だか、下ばかり向いてしまう。

 そんな時、私はいつも放課後の時間をアカネの飼育小屋で潰す。

 アカネというのは、四月からクラスで飼っている子ブタの名前だ。

 ちょこちょことした動きや、くりくりとよく動く目が、とにかくカワイイ。ずっと一緒にいても、飽きることがない。私たちが卒業した後も、ずっと呉藍小で飼い続ければいい、と思う。

 それなのに。

 年が明けたら、あの子をみんなで食べるのだと言う。当番制にして毎日世話をしている、あの子ブタをだ。

 冗談じゃない。

 何が『いのちの給食』だ。

 そりゃ、先生達の考えは分かる。自分たちで世話をしたブタを食べて、命の大切さやら重さやらを考えさせるのが狙いなんだろう。私だって、もう六年生だ。そのくらいの理屈は分かる。

 だけど。それでも。

 アカネを食べるだなんて、考えられなかった。私は絶対に認めない。この半年で、どうにかみんなの気持ちを変えるつもりだった。

 今日も、そのことでクラスの友達と喧嘩した。

 アカネが来てから、友達が減った気がする。別に構わない。

 あの子は――アカネは、私が助けるんだ。

 グラウンド隅の飼育小屋が視界に入ったところで、私は改めて、決意を固めたのだった。

 飼育小屋には、先客がいた。

 いつもふざけて先生に怒られている、クラスの男子三人組だ。今日はアイツらが当番なんだっけ。放課後は小屋の掃除をすることになっている筈なんだけど、どうせサボって遊んでいるに違いない。もしそうなら何か言ってやろう――そう思って小屋の扉を開けた私は、そのままその場に固まってしまった。

 三人とも、モップを手にしている。

 モップの柄は、アカネの体に押し付けられていた。

 泣きそうな顔で、私を見上げるアカネ。

 一瞬で、全身の血の気が引いていくのが分かった。

「やべ、アスカだぞ」

 三人組の一人が私に気が付く。

「……何してるの」

 震える声で、そう言うのがやっとだった。

「別に? アカネと遊んでただけだって。ほら、コイツだって喜んでる――」

 最後まで聞かず、馬鹿なことを言ってる男子を突き倒した。一気に喧嘩になる。三対一。だけど、体は私の方が大きい。それに、本気で怒っていた。多分、鬼みたいな顔をしていたと思う。気がついたときには、奇声を発しながら男子から奪ったモップを振り回していた。半べそになりながら飼育小屋から逃げていく男子たち。馬鹿で、ガキで、どうしようもない。これだから男子は嫌なのだ。どうせ、暇つぶしのつもりでアカネをいじめていたのだろう。絶対に許せない。

「アカネ、大丈夫?」

 肩で息をしながら、怯えた表情のアカネを抱き寄せる。服に泥がついたけど、そんなの全然構わない。

「どこか、怪我してない?」

 言ってから、頭に触れた手がべったりと血で汚れているのに気がつく。よく見ると、頭から血を流している。驚いて先生を呼び、一緒に処置をする。ついでに、あの男子たちのことも話しておいた。

 この子は、私が守るって決めたばかりなのに。

 頭に包帯を巻いたアカネを抱きすくめて、私は再び決意する。

 どんな手を使っても、この子を守り抜くんだ――と。

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