幕間 6
俺は、走っていた。
いくつもの角を曲がって、いくつもの扉をはねのけて、走って、走って、走った。
「コータローッ!」
遠くで、俺を呼ぶ声がする。
だけど構うものか。
俺はただ――外の世界を、知りたいのだ。
生まれてから今まで、俺は狭い場所に押し込められていた。
泥と餌と、汗と排泄物。
仲間達とグチャグチャになりながら、今まで生きてきた。
当たり前だと思っていた。
それが、世界の全てだったのだ。
最近になって、外の世界があることを知った。日に数回、飼育員がやってくる時だけ垣間見える、扉の先。
あの先には、何があるんだろう――。
一度、見てみたかった。
そこに行けば、何かが変わる気がした。
俺たちのいる部屋には、二枚の扉がある。飼育員はまず、奥の扉から入ってきてすぐに鍵をかけ、そして次の扉を開ける。そうして、俺たちに餌をやったり、掃除したりする。だから、まず抜け出すのは無理だと思っていた。
その時が、来るまでは。
鍵を、かけ忘れたのだ。奥の扉は、ただ閉められただけで、鍵のかかってない状況だった。そのまま、俺たちの目の前の扉を開けたのだ。
こんなチャンスは、二度とないと思った。
気が付いたときには、飼育員を突き飛ばしていた。
先へ。
先へ。
扉の先へ。
俺は走っていた。
意外なことに、俺と同じことを考えていた奴がいたらしい。俺の後ろを誰かが走っている。同じ部屋のオハラだ。特に、思うところはなかった。好きにすればいい。俺も、好きにさせてもらう。
いくつもの扉を抜けた。
何人もの人間を突き飛ばした。
そして、俺はついに外の世界を手に入れた。
外は――広かった。
暑かった。
それでも、俺は走るのをやめなかった。
外の世界はいくつもの色が、いくつもの匂いが渾然としていて、走りながら何度もよろけそうになった。
暑い。
とにかく、暑い。
地面が揺れる。
何だか、ひどく気分が悪い。
気が付いたときには、周りは暗くなっていた。ここはどこだろう。屋根はあるけど、建物の中ではないようだ。前と後ろには世界が広がっている。だけど時々、物凄く大きな音がして、それが気分の悪さに拍車をかける。
不意に。
目の前に人間が現れた。
俺の姿を目にして、悲鳴をあげている。
うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
気分が悪くてとにかく黙らせたくて、俺はその人間に突進をかましていた。人間は簡単に吹っ飛び、すぐに動かなくなる。
何て弱いんだろう。
俺は動かなくなった人間を放っておいて、歩き始めた。
――腹が、減った。




