エピローグ1
潮の香りがした。
どこからか、潮騒も聞こえてくる。
無機質な工場群を抜けると、すぐに海に出る。
思い出の土地。
忘れ得ぬ場所。
全ては、ここから始まった。
あの女子中学生は、ここに。
ここに、彼女は眠っている。
彼女は、確かに生きていた。
笑って泣いて、生きていた。
しかし、それももう昔の話。
彼女は――首を折って、死んだのだ。
この数週間で、様々なことが起きた。
混乱した。
困惑した。
迷った。
惑った。
しかし――全ては、終わった。
十数年の歪みは矯正された。
全て掬われ、全て救われた。
今は、収束の時。
そのために、少女の眠る浜辺へとやって来たのだ。
しばらく歩くと、目的の場所が見えてくる。
かつて、白い家が建っていた――思い出の場所。
その、すぐ近く。
そこには、先客がいた。
季節外れのマーガレットを花束にして、砂の上に置いている。
彼女はその場に屈み込み、手を合わせている。
じりじりと太陽が照り付ける中で、いつまでも動かないでいる。
しばらく様子を見ていたが――意を決し、声をかける。
「いると思った」
振り向いた彼女は、ひどく穏やかな顔をしていた。