英雄化
「にゃはっ」
振り下ろす右爪の一撃が、スカルのヘルム表面をバターのように削り取った。
「っ」
火花に赤い目を細め、右手にもった剣を振り抜く。その攻撃を紙一重でよけ、ワータイガーは距離をとった。
「うむ、英雄はそうでなくてはな」
剣を振り下ろし、スカルは微かに笑った。
「おっさんも英雄にゃろ? さっさと、剣を抜けよ」
「?」
困惑するスフィアを尻目にスカルは左手に剣を持つ。
「お前にはこれで十分だ」
「っ! 舐・め・る……にゃ!」
地面を抉り飛ばし、ワータイガーは打ち出された玉の様にスカル目掛けて飛び出した。撃ち込まれる一撃を察知したスカルは剣を胸の前に構える。
一撃。
構えた剣を貫き、ワータイガーの拳がスカルの胸に突き刺さった。
砕けて飛び散る剣の破片の向こうでスカルの赤い目が鈍く光る。
「再教育だ」
その言葉の直後、ワータイガーは地面に叩きつけられた。自由になっていたスカルの右腕が無防備になっていたワータイガーの頭に降りおろされたのだ。
「にゃっ!」
左手に掴んでいた剣の柄を投げ捨て、地に伏せるワータイガーの襟を掴み持ち上げる。そして、無言でワータイガーの顔を殴り飛ばした。
「にゃあ!」
後頭部を地面に打ち付けたが、すぐに体勢を立て直し、両手両足で地面を捉える。滴る鼻血が地面に赤い点を作る。
「にゃぁ、にゃぁ、やってくれたにゃあ」
「だから、どうした?」
「殺す!」
その瞬間、マナが殺気立つ。
「頭を下げろ!」
スカルがスフィアに大声で指示を飛ばすと、反射的にスフィアはその指示に従った。
次の瞬間、スフィアの頭をかすめて光の矢がワータイガーの肩に突き刺さった。
「にゃぁ?」
何が起きたか分からず、一瞬間の抜けた声を出したが、すぐに激痛で我に帰る。
「にゃぁああああああああ!」
肩を押さえ、もがき苦しむワータイガーを蹴り飛ばし、スカルはスフィアに言った。
「Jの後を追え」
「え?」
「奴は帝国軍を皆殺す。自分の手で奪い返したかったら、早く行け。お前は街を守る、英雄のはずだ」
スフィアは唇を固く結び、古城の方へ走り出した。
「そう、英雄だ、お前もな」
そう言ってスカルはワータイガーの方に向き変える。
マナがざわめき、大気が揺れる。
ワータイガーの聖剣が鈍く輝き、周囲にマナが溢れる。
「ぐ、ぐるるるるるるる」
低く唸る声が地面を這い、マナがワータイガーを包み込んで変貌させていく。
より、虎の姿へ。
刹那。
ワータイガーの姿が消え、スカルの脇腹に亀裂が走る。咄嗟に振り返ると、そこには六割が虎に変わった半人の獣が聖剣を口にくわえて、緑色に輝く目でスカルを睨みつけていた。
「英雄化か。逃がしちゃ、くれなそうだな」