黒い羽根
「フッ……空か」
舞った埃を吹き払い闇は慎重に眼を細める。
開け放たれ、地面に転がる棺の蓋。闇を留めるように口を開く棺桶。闇が中をのぞき込むと、そこには……。
「……無い。何も、無い」
魔力の炎が燃え上がり、棺桶内の闇を払う。赤く敷き詰められた寝床の上には誰もいなく、湿った闇マナだけが染み付いていた。
「ハズレ?」
闇はそう呟いて熱心に棺桶の中を探る。
そして、床の中から一枚の黒い羽を取り出し、口角を歪めて笑った。
「あったり~」
そう言った瞬間、地下室が揺れた。積み上げた石壁は軋み、砂が天井から落ちてくる。
「上が大変そうだ。でも、まぁふふふ」
黒い羽根を手に持ち、闇は上機嫌で言った。
「僕はファラが回収できればそれでいい。それ以外は、滅ぼそうか?」
◆
「くっ、この!」
降り下ろされる剣を篭手で去なし、スフィアはアンデットナイトと距離をとる。
「くそっ! 」
攻めるでなく、守りに徹した行動をするアンデットナイトにスフィアは焦っていた。気になることは三つある。帝国の事もそうだがここに一緒に来たJ達のこと、そして、反対側の城壁から突入してきた大三勢力。不落と呼ばれたラジアの城壁に穴を開けて入ってきたんだ、モンスターや只の人間である訳がない。
だとしたら……英雄。
英雄がこのラジアに群がるなんて。
一体、何があるんだ?
私は、この街のことを知らない。
私は、仮初の……。
一瞬判断が鈍り、剣の切っ先が頬を掠める。それによろめいたところにアンデットナイトが持っている斧が降り下ろされる。
「くっ!」
しまった、そう思った瞬間、けたたましい鎧の音が響きわたり、駆けつけたスカルがアンデットナイトを殴り飛ばした。
「随分余裕そうだな。ラジアの英雄」
見下ろしてそういうスカルにスフィアは反論する。
「ラジアの英雄じゃない! 私はスフィアだ!」
スフィアは立ち上がり、スカルを睨みつける。スカルは軽く笑いスフィアの頭に手を置いた。
「そうだ、それでいい」
置かれた手を振り払い、スフィアは周りを見渡す。
「Jは?」
「あいつは先に行った」
「はっ? どこに!」
「さぁな、まぁ、あいつならうまくやるだろ。それより……」
言葉を区切り、スカルは後ろを振り返った。
派手に鉄を打つ音が聞こえたかと思うと路地の隙間から猛スピードでアンデットナイトが打ち出され、向かいの店を破壊する。
「英雄のおでましだ」
路地からゆっくりと歩み出る者。
白い髪に白い獣耳、緑色の大きな目をギラギラと光らせたワータイガーの少女。ワータイガーはこっちに気付くと口角を歪めて笑った。
「暇と一緒に、潰させてもらうにゃぁ」
ワータイガーは腰につけた剣を抜き、投げつけるように地面に突き立てる。
「ん? あの剣は」
スカルがそう呟いた瞬間、ワータイガーの拳がスカルの腹に突き刺さった。
「先手、必勝にゃぁ」
重い衝撃でスカルの足元が刳れる。が、打たれたスカルは淡々と話し始めた。
「緑マナ、自身強化剣か。城壁を壊したのはお前だな」
「だったら、どうだっていうにゃぁ?」
凄むワータイガーの頭を掴み、赤鈍く光る眼でスカル言った。
「弁償……いや、再教育だ」