剣を取る者
うっすら霧のかかった早朝、要塞都市『ラジア』の側面外壁に三人の人影が佇む。右から、女男女。真っ白いローブを羽織り、深くフードをかぶった少女と青白い髪に赤い右眼、左眼には眼帯、腰に剣を携えた細身の男。そして、緑色に光る眼と白色の三角耳が薄暗い中でも目立つワータイガー娘の三人。
「この距離なら、はっきりわかるか?」
真ん中に立つ男が口を開く。
「うん、ここなら」
右に立った少女は薄く笑い、城壁に手をつける。
「一……二……、二本。中に剣は、二本」
「数が合わないな。俺の予想じゃ、三本はあるはずなんだが」
顎に手を当て、男は考える。その男を見てワータイガーは痺れをきらした。
「どっちでもいいにゃぁ。中に何本あろうが、やることは変わんないにゃぁ」
その言葉にローブを羽織った少女は言葉なくワータイガーを睨みつけた。
「にゃぁ? 何か言いたいことがあるなら言葉に出せにゃぁ」
敵意を感知したのか、ワータイガーは不機嫌全開で少女に難癖を付ける。
「やめろ。くだらねぇ」
ワータイガーを右手で制し、男は薄く笑う。
「らしくなかったな。剣があるとかないとか、どうでもいいことだ。ないわけが、ないんだからな」
「にゃはっ」
笑う男につられて、ワータイガーも笑う。少女はため息をつき、右手でフードを下に引っ張った。
「マナにノイズが混ざってる。ボクはそっちに向かうよ」
「好きにすればいいにゃぁ」
「さぁ、開戦だ」
◆
世界を揺るがすような地響きに起こされ、J達は小屋の外に駆け出した。
遠く見えるラジアから黒い煙が立ち上り、何者かが斬り込んだことを知らせている。
「想定外?」
ヴェルガがそう聞くと、Jは不機嫌そうに答える。
「想定外なんて無能な言葉は使わねぇ。十分予想の範囲内だ。いや、この世界なら、よくあることだ」
「なら、やることは一つだな」
スフィアを小脇に抱えたスカルが静かに言う。その言葉を聞いてJは口角を歪める。
「斬り込むぞ」
「ちょっ、ちょっと!」
小脇に抱えられていたスフィアが暴れだす。
「どうしたスフィア、トイレか?」
「違う! 私の剣! そして服!」
下着姿に手錠という変質者のような格好でごねるスフィアに英雄の姿は微塵の感じられなかった。
「そうだな。お前も、来るべきだ」
Jはそう言うと手錠に手を添え、マナを操作する。手錠全体が青く輝き、その形を失っていった。
「一分で支度しな」
そういうとJはラジアを見下ろす。
(マナが色めき立っている。何が、来た?)
「俺とスカルはスフィアを連れてラジアに突入する。ヴェルガ、援護を頼むぞ」
「おう」
「りょ~かい」
軽装鎧をまとったスフィアが走ってくる。
「さぁ、行くぞ」
◆
「随分騒がしいね」
闇の言葉に黒い剣士はそうだな、とだけ答えた。
(こうやってくるってことは、あれはあるのか)
闇が考えているうちに黒い剣士は支度を整え、聖剣を手にした。
「行くのかい?」
「当たり前だ。ここは既に帝国。英雄が守る街だ」
「ふふふ、そうだね。じゃあ、僕は捜し物に専念させてもらうよ」
「勝手にしろ」
それだけ言うと黒い剣士は部屋の扉を開け放ち、開けた広場まで歩み出ると黒刃の剣を抜き、敷き詰められた石畳に突き立てた。
「レギオン」
黒い剣士が術式を口にすると刃は黒く輝き、世界のマナを変換していく。
金属の擦れ合う音がけたたましくなり、剣士の前に鎧を着込んだ一個小隊が並び立つ。
そのうちの一人、重剣士が黒い剣士の前に歩み出る。黒い剣士は腰につけていた剣を外し、重剣士に差し出した。重剣士はそれを受け取ると小隊の先頭に立つ。
「またお前たちに剣を取らせる、私を恨んでくれ」
黒い剣士の言葉に、小隊は剣を前に構え、それが誇りであるかのように答えた。