英雄達
帝国軍の侵攻により城塞都市ラジアは陥落した。
帝国に立ち向かったラジアの英雄は謎の集団によって連れさらわれ、帝国はラジアを占拠することに成功した。
暑い……。
なんだ、この暑さは……。
……声……声が聞こえる。
子供の泣き声……。
子供の……。
「っ!」
まどろむ意識が覚醒し、反射的に目を開く。はじめに目に入ったのは木造の天井で、多少高い位置に吊るされたランプが淡い炎を灯し、薄暗くだが部屋を照らしていた。
「ここは……」
目にしみる光を右手で遮り、私は小さく呟いた。
「気がついたようだな」
その静かな声で、私はこの部屋に私以外の存在がいることを認識した。咄嗟に身体を起こそうと動くが、うまく動かせず、身体を横に倒した。
「まだ魔力が身体に残っている、無理に動くな」
声のする方に顔を上げると、そこには重装鎧を着込んだ人物が木製の椅子に座って本を読んでいた。
「お前は……誰だ……、ここは、どこだ!」
私が叫ぶと、重装騎士は本を閉じ、ゆっくりと私の方を見る。
「ラジアは落ちたぞ、英雄」
その言葉に、私は一瞬で記憶をなぞる。
帝国軍、黒い剣士、剣……剣!
「聖剣は!」
慌てて自分の横になっているベッドの周りを見渡す。軽装鎧が置かれているだけで剣がない。私の、剣!
「案ずる英雄、剣も俺達が回収した」
「余計安心できるか! お前はなに者だ!」
「俺は英雄だ。失われた国のな」
重装騎士はそう言うと机に置いてある銀のコップにコーヒーを注ぎ、砂糖を二本抜き取って私の方に歩いてきた。
「聖剣は『J』が預かっている。今は落ち着け。焦ったところでラジアは取り戻せんぞ」
「…………」
重装騎士の言うことは最もだ。痺れと脱力の残った今のコンディションじゃ、聖剣を持って突貫してもやられるのがオチ。だが、民は。
その心を見抜いてか、重装騎士が口を開く。
「民は無事だ。帝国は民に手出しはしない。奴らが倒したいのは、英雄……いや、聖剣だ」
聖剣……絶望に立ち向かうための力、マナの塊。生きるための力。
「今は休め。嵐はまた来る。いや、起こす」
重装騎士はそう言うとコップをベッド横のテーブル上に置いて踵を返した。
「……お前らは、何者だ?」
「名を聞くつもりなら自分から名乗ったらどうだ? ラジアの英雄」
「私は、英雄じゃない。『スフィア』だ」
そう返すと、重装騎士は薄く笑った、気がした。
「俺は『スカル』、失われた国の英雄だ」
そう言って再び歩き出そうとした瞬間、勢いよくドアが開け放たれた。
「おっつかれさ~ん!」
腰まである白い髪を褐色の肌の上で踊らせ、女の子が上機嫌で部屋の中に入ってくる。
「偵察は終わったようだな」
「問題ないない。あとはJの判断待ちよん。それまで待機だってさ」
スカルとやりとりをする女の子。肌は褐色、瞳は緑、そして、あの尖った耳は……エルフ。
見ていることに気づいたのかエルフはスカルの脇から顔をのぞかせた。
「むふっ、起きたのね、仔猫ちゃん」
怪しく微笑むとエルフは早足でベッドの脇にかけて来て、私の顔を覗き込んだ。
「むふっ、やっぱり、可愛い顔。剣を持って戦ってる時から気になってたのよね」
気圧され、一歩引いている私にエルフは熱っぽい声で囁く。
「あたしは『ヴェルガ』。あなたとは、と・く・べ・つ、仲良くしたいなぁ」
ヴェルガの小さな手がなぞるように頬をさすり、首を伝って胸まで降りていく。
え、あ……これは……。
スカルに視線を投げるとスカルはあえて視線をそらし、開け放たれたドアに向かって歩み出す。そして、ドアの向こうに行くと、小さく注意した。
「ヴェルガ、スフィアはまだ魔力が抜けきっていない。あまり楽しみすぎるなよ」
それだけ言うとスカルは扉を閉めた。
「むふっ、たっぷり可愛がってあげるわね。ス・フィ・ア・ちゃん」
にじり寄るヴェルガから逃れようとするが、まだ身体が痺れてうまく動けない。
「あ……あああ」
「怯えた目も可愛いわぁ。たっぷり、ねっとり、気持ちよくさせてあ・げ・る」
「あ・あ・あああああああああああああああ!」
甘饗木霊する山小屋を他所に男は剣を見ていた。
刃が青白く輝く聖剣。
「J」
声を掛けられ、男は剣を鞘に収めた。
「どうした、スカル」
「あの英雄、どうするつもりだ?」
「どうもこうもしない。ここで剣を折って、おしまいさ」
そういうと男は鞘付きの剣を地面に倒す。そして、腰に携えた鞘から剣を抜くと逆手に握り直し、地面に転がる剣目掛けて振り下ろした。
タイトル思いつかないです。
困った。