狂宴と飢餓
「不愉快な感覚だにゃあ」
顔をしかめ、ラウラがそう漏らす。そのぼやきに、スフィアは口角を歪めて笑った。
「さすが英雄、鼻が効くな」
「にゃっ、お前!」
受けていた剣を弾き上げ、スフィアはラウラに切り込む。その一太刀を紙一重で躱し、ラウラはよろめきながら距離をとった。
「さっきの続き、しようか?」
「やっぱりお前、さっきにょ鎧にゃあ!」
剣を地面に突き立て、マナをブーストさせるとラウラは爪を立てる。そして、スフィアに襲いかかった、が、スフィアの後ろから飛び出した影が、ラウラを空中で蹴り飛ばす。
「にゃっ! にゃにするにゃぁ! ジョーカー!」
「彼女を傷つけることは、俺が許さん」
そう、ソフィアへの攻撃を阻止したのは敵であるはずのジョーカーだった。
ショーカーは薄く笑いながらソフィアに向きかえる。
「そう、そうだ、彼女が死ぬ訳がない。死んだ彼女は偽物だったんだ。そうだよなぁ、イェーガー。そう、そうだ。くくくくっ」
「ジョーカー……彼女は」
Jが口を開くと、ジョーカーはそれを手と殺気で制する。
「やはり、あいつの言葉は嘘じゃなかったな。これより、目的を完遂する」
ジョーカーは冷たい目でそう呟くとJの方に向き直り、薄く笑った。
「お前も探していたんだろ? この街で、希望を」
「…………」
「見つかったか? 俺は、見つけたぞ」
そういうとジョーカーは腕を伸ばし、掌を地面に向けた。
「四本ある剣の内の一本。絶望の剣と対になる剣。そいつが……」
ジョーカーがそこまで言うと街のマナがざわめきだし、輝き、色めき出す。
「希望の剣」
輝きが広がり、街を包み込んだかと思うと全てが収束し、ジョーカーの手の中で剣として収まった。そう、ラジアの街全てが一本の剣へと姿を変えた。
「な……」
「お前には見えなかっただろ? 過去を見ないお前にはな」
剣を手にしたジョーカーが口角を歪めて笑う。その隣に全裸のラウラと満身創痍のエフィメラが降り立った。
「ミッションコンプリートにゃ」
「目標達成だね」
「あぁ、これから始まる」
立ち去ろうとするジョーカーに向かってJが叫ぶ。
「何が目的だ! ジョーカー!」
ジョーカーは振り返り、冷たく言い放つ。
「そんなこと、どうでもいいだろ? 俺は全てひっくり返す、それだけだ」
「ひっくり返す?」
「そう、地位も名誉も、モラルも秩序も、正義も悪も、罪も罰も。全てをひっくり返す。そう、その世界で、俺が正義だ」
「馬鹿な……ことを」
「その概念もひっくり返す。俺のこの、希望の……いや、相応しくないな。これから始まる宴を盛り上げる剣。そう、『狂宴の剣』で」
その言葉に、ジョーカーの剣が鈍く呼応する。
「止めてみるか? お前の剣、絶望の剣で」
「この剣は絶望の剣なんかじゃない。世界を体現する剣だ」
「この餓えた世界、平和に飢えたこの世界を体現する『飢餓の剣』だ」
次がエピローグでプロローグ終了です。




