人間
「くっ!」
前蹴りを両手で受け、エルフは舞うように後ろに跳ぶ。その行動は対峙した敵から距離を離すような形をとった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
肩で息をつくエルフを男は冷ややかな目で見下ろす。
「さぁ、立て。マナを編め。魔法を形成しろ。お前にできるのは、それだけだ」
「ぐっ……ふざけるな!」
憤りを織り込み、エルフは掌の上で光の槍を編み上げる。そして、それを男に向かって放った。
「いい魔法だ、だが」
地面に刺さった剣が鈍く輝く。すると、空中を走る光の槍が微かに綻び、そこから崩れ、霧散するように消えていった。
「永遠に俺には届かない」
男はそう言うとエルフの前に立ち、胸を突き飛ばした。
「ヴェルガ、なよい顔をしているが、こいつは、女か?」
無気力そうにそう聞く男にヴェルガは明るく答える。
「確かめてみたら?」
その答えを受けて男はエルフのローブをまくった。
「ほぉ、こいつは立派だ」
「くっ!」
ローブを引き戻し、悔しさをにじませた表情でエルフは男と距離をとった。
「おう、お前、名前はなんだ?」
「?」
「エルフのお前だよ。男だろ? 名乗れよ。こっからは、男同士の勝負だ」
「だったら、お前から名乗れよ」
エルフの返答に男は苦笑いをして答えた。
「俺の名前はソリッド。青属性の聖剣使い、ソリッドだ。てめぇは、なんだ?」
「ボクの名前は、エフィメラ。秩序を……戻すものだ!」
エフィメラはそう叫ぶと空中のマナを編み込み、無数の槍を生成する。
「全部白マナ……か。もっと編んでもいいんだぞ?」
その言葉に、エフィメラの怒りが増す。
「うるさい! 消えろ!」
ソリッドに向けて解き放たれた槍は、空中で綻び、ソリッドに到達する前に霧散して消えていく。
マナが舞うその中を、ソリッドは悠々と歩き、エフィメラにたどり着いた。
「消えるのは、お前だ」
その言葉と共に放たれたソリッドの前蹴りがエフィメラの胸に突き刺さり、エフィメラを遠くに弾き飛ばした。
「な、なぜ、なぜ魔法が」
「剣の力だ」
「聖剣」
「そう、人間だけに与えられた、絶望を振り払う力、だ」
エフィメラはうなだれ、呪詛を口ずさみながらゆっくりと立ち上がる。
「人間、人間人間人間人間! お前らがそんなに偉いのか! 特別か!」
マナがざわめきだし、エフィメラの周りを荒らしのように吹き荒れる。
「特別、特別か。そうだな、特別だよ」
ソリッドは薄く笑う。
「剣がなければ犬にも劣り、マナも編めなきゃ、魔法も使えない。そう、人間は、特別、弱いんだ」
「だから、進化するんだ」
これで全員の名前が出揃いました。




