ラジアの英雄
「ファラ!」
最初に叫んだのはアガサだった。
だが、ファラはアガサの方ではなくさっき自分がいた位置、そこにいる自分と置き換えられたラロを見て優しく微笑む。
「……貴方を……守れた……」
涙を浮かべ、ラロに手を伸ばすファラをJは無慈悲に切り払った。
「う……ぐうう、がぁ……あああああああああああ!」
鮮血の中に倒れるファラを見て、ラロは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。そして、折れた聖剣を両手で持ち、自分の腹に突き立てた。
「……守れなかった……守れなかった……俺は……また!」
マナが膨れ上がり、腹に刺さった聖剣が、ラロの身体に溶け込んでいく。
「進化するぞ」
落ち着いた声に、Jは振り返る。そこには悲しげな眼をしたスカルが、スフィアの横に佇んでいた。
「スフィア」
スカルは小さく呟き、しゃがみこむ。顔にかかった髪をどかし、頬に手を当てるとスカルは優しく微笑んだ。
「君は人間でありながら、英雄を望んだ。だから、君を英雄にしてやろう」
「スカル」
止めようとするJを右手で制し、スカルはブレストアーマーを引きちぎった。
中から出てきたのは、肋骨に包まれて鈍く輝く一本の剣。スカルはそれを引き抜き、静かにJに問いた。
「J、俺は、正しかったか?」
その問いに、Jは静かに答えた。
「その答えは、お前がよく知っているだろ?」
Jの答えに、スカルは微笑んだように見えた。
「スフィア、目覚めたお前の目に映る世界が、濁ってないことを」
その言葉と共に、スカルは聖剣をスフィアの胸に突き立てた。
「ご、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
地響きと共に、マナが騒ぎ出す。
Jが振り返ると、そこには巨大なゴーレムが天を掻き乱すように雄叫びを上げていた。
ファラの遺体を抱え、アガサは苦々しくゴーレムを見上げ、叫んだ。
「ラロ!全部、潰せ!」
その声に呼応して、ゴーレムは古城の壁を薙ぎ払った。瓦礫が飛び散り、石の雨が降る。その雨の中でJは剣を構え、ゴーレムに向かって走る。
石の雨を掻い潜り、崩れた階段を駆け上がり、ただ、一直線に突き進み、大きく飛ぶと、ゴーレムの厚い胸に聖剣を突き立てた。
「枯渇」
Jがそう呟いた瞬間、聖剣は鈍く輝き、ゴーレムをマナレベルで分解していった。
崩れ落ちるゴーレムはただ、天を仰ぎ、巨大な腕を掲げた。何かを、求めるように。
そして、全てが消え、剣だけがそこに残った。
Jはその剣に手を伸ばした。その瞬間、挟むように剣がJに襲いかかる。
ギンッ!
激しい金属音とともに、剣は剣によって止められた。
「にゃぁ?」
「ふっ」
サイドから剣を振ったのはラウラとジョーカー、それを止めたのは二本の剣を持ったスフィアだった。
「寝起きはどうだ? ラジアの英雄」
剣を手にしたJがそう言うとスフィアは悲しげに答えた。
「寝起きに骨布団は、目覚めが悪いな」
その言葉に、Jは微笑む。
「その感性なら、まだ人間だな」
剣の特性上、ラロがあっさり。
帝国チームはここでさよなら。
アガサは逃げました。




