パンツは
ファラは階段の上から二人を見下ろし、呪詛を口ずさむ。すると、二人を取り囲んでいたアンデットナイトが崩れ落ち、階段上には重剣士とファラと悪魔、見下ろす先にはJとスフィアがそれぞれ対峙し、睨み合っていた。
「とっとと終わらせるよ」
翼を広げ、悪魔はマナを収束させる。
「アガサ」
名を呼ばれ、悪魔が振り返る。
「英雄狩りは私とラロで殺る。お前はラジアの英雄を処理しろ」
「は? 奴は強い、全員で一気に!」
「命令だ」
反論するアガサの言葉をファラは冷たい一言で終わらせた。アガサは歯噛み、苦々しい顔でファラに言う。
「すぐ片付ける」
それを冷ややかな目で一瞥し、ファラは剣を顔の前に構えた。
「行くよ、ラロ」
そう呟くと重剣士は頷いた。
◆
「話し合いは終わったみたいだな」
段上を見上げ、Jが呟く。剣を構えたまま緊張状態を持続させているスフィアは小さく息を吐き、その呟きに答えた。
「スフィア」
Jは静かに声をかける。段上に目線を置いた状態でスフィアは「なんだ」と答えた。
「……パンツは履いているか?」
「ぶっ!」
突然の問いに、スフィアは吹き出した。
「なっ、おまっ、当たり前だろ!」
慌てながら答えるスフィアを薄く笑い、Jは静かに言う。
「俺たちが何かって聞いたよな? その答え、見せてやるよ」
そう言って剣を薙ぎ払うと黒剣士目掛けて走り出した。
それが合図となり、アガサが翼を広げ、宙を舞う。
ファラもラロも一斉に戦闘態勢を取る。
一瞬あっけにとられたが、すぐにスフィアも黒剣士の元に走り出そうとした。
「それはダメだ」
空中から声が掛かり、スフィアは足を止める。
舞い降りてくるアガサ、その目には苛立ちと焦りが燃料の怒りが燃えていた。
「すぐに終わらせる」
息巻くアガサに、スフィアは小さく息を吐く。
「獲物をJに取られたくはない。私も、同じ気持ちだ」
◆
同時刻……古城内
ジョーカーは一人、記憶をなぞるように古城の中を見回していた。
「何も変わっていない。あの頃と、何も」
柱を撫で、壁に爪を立て、天井を仰ぐ。
「変わっていない、不自然なほどに」
(もしかしたら、もしかするかもしれんな)
ジョーカーはそう考え、走り出した。
そう、これは過去の、彼女の知り得ないこと……。
いくつかの角を曲がり、ジョーカーは立ち止まった。
一枚の石の壁。
ジョーカーはそれを手で撫でると不敵に笑った。
「やっぱりそうだ。ここは……ラジアじゃない!」




