言葉無き
「うううっ、がぁ!」
唸りを含んだ一撃が空洞の鎧を叩く。鎧は凹み、たわむが、倒れることはない。一撃を入れた獣は高く飛び、鎧と距離をとる。凹んだ鎧は僅かな時間で膨らみ、元の形に戻っていく。
「……それだけか?」
空洞の鎧こと、スカルが静かに言い放つ。対峙する獣、元ワータイガーの少女は低く唸りながら牽制している。
「お前は英雄だ、悲しいほどにな」
そう言うとスカルは静かに獣に向かって歩きだした。
「剣を使い、マナを引き出し、力を手にする。その力で人を守る者。それが英雄だ」
獣の前に立ち、スカルは静かに言った。
「表向きはな」
「がぁ!」
右爪の一撃がブレストアーマーを引き裂く。それに狼狽えることなく、スカルは右手を振り抜いた。拳は獣の顔を捉え、犬歯をへし折る威力で殴り飛ばす。
「剣はマナの塊。純粋なるマナ、世界を構築するものだ」
「う、ぐぐぐぐ、だから、なんだ!」
ワータイガーは英雄化を弱め、獣四割まで身体を戻し反論する。
「そんなことは誰でも知ってるにゃあ!」
「いや、お前は知っちゃいない。剣の本質を」
スカルはワータイガーと向かい合った位置で立ち止まり、話を始めた。
「剣は、魔法を使うためのブースターでも、絶望を振り払うための力でもない。剣は……組み替えるものだ。マナを使い、生物をな」
「…………」
「人間を進化させるもの、それが剣だ。だから本来、お前はそいつを手にすることはできない。人間じゃないからな」
「お前が……あたしを語るにゃ」
「お前には興味はない。剣が変わったことに興味があるんだ。いや、世界が変わったといったほうがいいか」
「グダグダうるせぇにゃぁ。あたしにはどうでもいいんにゃよぉ!」
剣を手にし、ワータイガーはスカルに切り掛る。その剣を右腕で止め、静かに呟いた。
「悲しいな」
その瞬間、マナがざわめき、ワータイガーの体毛が総毛立つ。
「お前は悲しいほど、英雄だ」
スカルの首に赤いボロボロのマントが現れ、ヘルムの表面には白い髑髏の仮面、足元からは無数の骨が湧き出してくる。
「そう、英雄だ。話し合いを必要とせず、力だけを押し通そうとする。俺も、お前も、悲しいぐらいに、英雄だよ」
英雄化したスカルを目の当たりにし、ワータイガーは臆しながらも、振り絞るように叫んだ。
「何が英雄にゃぁ! 変えられない奴が、偉そうに喚くにゃぁ!」
剣を大地に突き刺し、ワータイガーはマナを吸収して体内で自己強化の魔法を編む。
「何が、何が、何が、何が、何が英雄にゃー!」
力をフルチャージしたワータイガーが拳を振り上げ、スカルに殴りかかる。
スカルが右手を広げると、足元から湧き出た骨が右手に集まり、巨大な骨の拳を形成した。
「お前にどんな理由があるか知らんが……俺たちは言葉を知らない。英雄は話し合えないんだよ」
そう言って、スカルは拳を振り上げる。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!」




