概念
「早いね、ガス欠」
エルフは杖を肩にかけ、妖艶に笑う。その前でヴェルガは膝を折り、息も絶え絶えに弓にすがっている。
「高性能は燃費が悪いのよ」
「粗悪なマナを使ってるから、消費が悪いの間違いでしょ? 汚れた英雄さん」
そう言うとマナを編み、光を収束させた槍を手のひらの上に作り出した。
「そろそろ死のうか? これ以上見てると、目が穢れる」
「……そうだね。エルフは、汚いもんね!」
不敵に笑うとヴェルガは後ろに跳んだ。咄嗟にエルフは光の槍を投げる。近づく槍を一瞥もせず、ヴェルガは地面に手を翳した。
浮かび上がる魔法陣の中からマナの矢が精製され、ヴェルガの手に握られる。
光の槍がヴェルガの腹に突き刺さるも、気にすることなくヴェルガは弓を引き、放った。
矢は真っ直ぐ走り、エルフの長い耳を貫いた。
「げっ、ミスった……」
大地に引き寄せながらヴェルガはそう呟いた。エルフは右耳を押さえ、暫く痛みに耐えていたが、すぐに立ち上がり、ヴェルガのもとに歩み寄る。
「やってくれたなぁ」
怒りのこもった声で、そう言うと、槍の消えた腹の傷口を思い切り踏みつけた。
「がっ!」
腹の傷から鮮血が吹き出し、ヴェルガの全身に激痛が走る。
「長い耳はな、エルフの象徴。それを、よりにもよって弓で……万死に値する!」
怒りを露にするエルフに、ヴェルガは笑った。
「何が可笑しい」
「随分……エルフに誇りをもってる……みたいだからさぁ」
「何が悪い」
「嫌っているみたいに言ってたじゃない?」
笑い混じりでそう返す言葉に、エルフは冷徹に答える。
「嫌いだよ、今のエルフと人間、その概念を作り出したものがね」
血に濡れた右手でエルフはマナを編み、再び光の槍を作り上げる。
「だから、ひっくり返すんだよ、何もかも」
『それが目的か』
不意に声が響き、エルフが顔を上げると、その顔目掛けた鉄拳が振り抜かれ、エルフは殴り飛ばされた。
「随分いい格好だな、ヴェルガ。そのまま死ぬのも一興だと思わないか?」
静かにそう言いながら、一人の男がヴェルガの顔を覗き込んだ。
薄赤い瞳と、黒い髪、皮の鎧を着込んだ長身の男。男はつまらなそうな顔で笑う。
「あいにく……ここで死ねるようなら……剣なんか、取らないっての」
「そうか、生き溺れたいか」
頭を掻きながら、男は立ち上がる。
そして、エルフと向き合うと怠そうに言った。
「お前は、死に急ぐか? 」
「……ボクは、お前じゃない……」
鼻血を拭い、エルフはローブを深く被り、顔を隠す。
そして、杖を構えると、大量のマナを編み出した。
宙で編まれる無数の光槍。
それを見て、男はため息混じりに剣を抜き、大地に突き立てた。
「剣なしに俺の相手は、きついぞ」




