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聖剣~プロローグ~  作者: 霜月音闇
13/20

概念

「早いね、ガス欠」

 エルフは杖を肩にかけ、妖艶に笑う。その前でヴェルガは膝を折り、息も絶え絶えに弓にすがっている。

「高性能は燃費が悪いのよ」

「粗悪なマナを使ってるから、消費が悪いの間違いでしょ? 汚れた英雄さん」

 そう言うとマナを編み、光を収束させた槍を手のひらの上に作り出した。

「そろそろ死のうか? これ以上見てると、目が穢れる」

「……そうだね。エルフは、汚いもんね!」

 不敵に笑うとヴェルガは後ろに跳んだ。咄嗟にエルフは光の槍を投げる。近づく槍を一瞥もせず、ヴェルガは地面に手を翳した。

 浮かび上がる魔法陣の中からマナの矢が精製され、ヴェルガの手に握られる。

 光の槍がヴェルガの腹に突き刺さるも、気にすることなくヴェルガは弓を引き、放った。

 矢は真っ直ぐ走り、エルフの長い耳を貫いた。

「げっ、ミスった……」

 大地に引き寄せながらヴェルガはそう呟いた。エルフは右耳を押さえ、暫く痛みに耐えていたが、すぐに立ち上がり、ヴェルガのもとに歩み寄る。

「やってくれたなぁ」

 怒りのこもった声で、そう言うと、槍の消えた腹の傷口を思い切り踏みつけた。

「がっ!」

 腹の傷から鮮血が吹き出し、ヴェルガの全身に激痛が走る。

「長い耳はな、エルフの象徴。それを、よりにもよって弓で……万死に値する!」

 怒りを露にするエルフに、ヴェルガは笑った。

「何が可笑しい」

「随分……エルフに誇りをもってる……みたいだからさぁ」

「何が悪い」

「嫌っているみたいに言ってたじゃない?」

 笑い混じりでそう返す言葉に、エルフは冷徹に答える。

「嫌いだよ、今のエルフと人間、その概念を作り出したものがね」

 血に濡れた右手でエルフはマナを編み、再び光の槍を作り上げる。

「だから、ひっくり返すんだよ、何もかも」

『それが目的か』

 不意に声が響き、エルフが顔を上げると、その顔目掛けた鉄拳が振り抜かれ、エルフは殴り飛ばされた。

「随分いい格好だな、ヴェルガ。そのまま死ぬのも一興だと思わないか?」

 静かにそう言いながら、一人の男がヴェルガの顔を覗き込んだ。

 薄赤い瞳と、黒い髪、皮の鎧を着込んだ長身の男。男はつまらなそうな顔で笑う。

「あいにく……ここで死ねるようなら……剣なんか、取らないっての」

「そうか、生き溺れたいか」

 頭を掻きながら、男は立ち上がる。

 そして、エルフと向き合うと怠そうに言った。

「お前は、死に急ぐか? 」

「……ボクは、お前じゃない……」

 鼻血を拭い、エルフはローブを深く被り、顔を隠す。

 そして、杖を構えると、大量のマナを編み出した。

 宙で編まれる無数の光槍。

 それを見て、男はため息混じりに剣を抜き、大地に突き立てた。

「剣なしに俺の相手は、きついぞ」

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