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聖剣~プロローグ~  作者: 霜月音闇
12/20

帝国

「ラジアの英雄」

 黒い剣士は刃を鈍く輝かせ、呪詛と共にマナを編む。

 黒い剣士の立つ、階段の踊り場に赤い魔法陣が浮かび上がり、呪式を形成させていく。

「随分痺れる登場だったな」

 皮肉混じりにJは言う。

「敵じゃないから味方って考えるほど、私は単純じゃなくてね」

 剣を大地に突き立て、スフィアはマナを編み込み圧縮させてゆく。

「ふっ、じゃあ、振り払うか、絶望を」

 薄く笑みを浮かべて、Jは剣を構える。

 そして……。

「影斬り」

「ライトニング・ボルト!」

 二人の剣士が放った魔法が、ぶつかり、混ざり合って、マナの激流に変わる。その激流は性質を変化させながらあばれまわり、アンデッドナイトや建物をなぎ倒した。

「っ!」

 荒れ狂うマナを掻い潜ってJは階段を駆け上がる。前に立つ重剣士は剣を構え、向かってくるJを待ち構える。

 一瞬。

 白い軌跡が大気を切り裂き、赤い火花がマナに混ざるように飛び散り消えていった。

「貰った」

 駆け抜けたJは重剣士を切り抜き、黒い剣士の前に来ていた。

「お前とは、縁があるな」

 黒い剣士はそう言うと、マナを振り払い、剣を構える。

「私は、忘れていないぞ、あの時の事を」

「何を言っているのかわからんが、剣を持って前に立つ、斬り合う理由としては十分だ」

「帝国を討つのは私だ! ラジアを取り戻すのは私の役目だ!」

 剣を翳しながら、スフィアが階段を駆け上がる。

 四人の英雄が各々の射程範囲に入った、一触即発のその時。

 黒い翼が舞い降りた。

 赤い髪、黒い曲がった角、コウモリの羽を羽ばたかせ、舞い降りてくる中性的な、悪魔。

 悪魔は黒い剣士の傍に立ちスフィアたちを威圧している。

「ファラ……撤退だ。ここには留まれない」

「何故だ?」

「天敵がいる。留まれば全てを失うぞ」

「私には、もう、失うものなど」

 そう言って歩み出そうとする黒い剣士の腕を悪魔は引き止めるようにつかんだ。

「根こそぎ無くすんだぞ、ファラ。命だけじゃない、仲間も、忠誠心も、剣も」

「……私は……探しているんだ」

 そう言ってファラは悪魔の手を振り払った。

「さぁ、どっちが来る? ラジアの英雄か? それとも……」


「英雄殺しか?」


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