英雄凱旋
変わらないな、ここは。
古城の廊下を走りながら男は大気に充満したマナを読み解く。
あの時と同じだ、何も変わっちゃいない。
「違うのは……てめぇの存在か?」
拳を握りしめると、マナを纏わせ、力任せに振りかざした。拳は壁を砕き、部屋を区切る境界線を引き剥がす。
「っ!」
崩れる壁の影から、闇が振り落とされたように転がりでる。
闇は顔を上げ、敵意を露わにする。
「ジョーカー……」
「……悪魔か」
ジョーカーは見下ろしながらそう言うと顎に手を当て考え始めた。
「この街が廃墟になるのはいい、帝国の物になるのも構わない。信仰無き瓦礫に興味はない。だが」
殺気が大気を震わせ、戦慄が場を支配する。
「聖域に蛆虫が湧くのは、我慢ならんなぁ」
その言葉を受けて、反射的に闇はジョーカーから距離をとった。
「僕は……君と戦うほど馬鹿じゃない。ここから出ていく、だから、見逃してくれないか?」
「悪魔が命乞いか?」
見下すようなその言葉に、闇は引きつった顔で答える。
「するさ、僕は君に勝てるわけがないんだからね」
「賢明だな。マナ一つ残さず失せろ」
ジョーカーはそう吐き捨てると踵を返す。闇は逃げるように窓から飛び降りた。
それを後ろ目で確認し、ジョーカーは呟く。
「信仰は消えない。あの時と逆だな。だからここに、希望はあるのか」
銀の軌跡が空を裂き、赤い火花が鎧に乱反射する。
アンデッドナイトが取り囲む古城前でJは剣を翳し、重剣士と対峙していた。
「なかなか、いい剣士だ」
距離を取り、Jはそう呟く。重剣士は無言で剣を大地に突き立て、マナを編む。
「グレイブ」
呻きにも似たその詠唱とともに、地面が槍状になってJに襲いかかる。その攻撃を軽々と躱し、Jは再び重剣士との距離を詰める為に動く。
「……」
無言の槍がJを掠め、Jは再び元の位置に押し返される。
「……」
重剣士の前に立ち塞がるアンデッドナイトたち。その連携は訓練された兵士そのものだった。
「……一気に吹っ飛ばせれば楽なんだがな」
ため息混じりにそう言うと、Jは立ち上がり、再び剣を構えた。
「……サンダー・ヴォルト!」
不意に声が上がったかと思うと、プラズマ光球が宙に現れ、辺り一帯を激しい放電と閃光が襲った。
「っ! ラジアの英雄か!」
目を細め、叫ぶ黒い剣士の前に金髪の剣士スフィアが斬り込んだ。
「帝国!」
「くっ!」
剣を切り下ろした次の瞬間、スフィアは天高く宙を舞った。
「ウォール」
重剣士の編んだマナがスフィアの足元で壁を形成し、隆起する勢いで弾き飛ばしたのだ。
落ちてくるスフィアに向けて槍を構えるアンデッドナイト、それを横から切り伏せ、Jはスフィアの足場を作った。スフィアはそこにうまく着地し、黒い剣士を睨んだまま立ち上がる。
「取り返しに来たぞ!帝国!」




