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聖剣~プロローグ~  作者: 霜月音闇
10/20

エルフ

 ラジアを見下ろす丘の上で、ヴェルガは一人、放った弓の余韻を味わっていた。

「あた~り~」

 不意に声をかけられ、ヴェルガは振り返る。そこに立っていたのは真っ白いローブを羽織り、フードを深々とかぶった年齢不詳の魔法使いだった。

「今射抜いた獣の、仲間?」

「そうかな? そうかもね?」

 はっきりしない口ぶりでローブの人は答える。その態度に業を煮やし、ヴェルガは右手を地面に当てる。そして、ゆっくり引き上げると、手に引っ張られて地面から矢が現れた。

「赤なら、よく燃えるかな?」

「怖い発想だね」

 終始緊張のない会話を交わしながら刻一刻と戦いに向かっている。

 ヴェルガが弓を構え、ローブが薄く笑った瞬間、マナがざわめいた。

「っ!これは!」

「英雄化……しちゃった」

「やっぱり英雄集団か!」

 状況を察すると、ヴェルガはラジアに向かって弓を引いた。

「ダメだって」

 放とうとした一瞬、マナのざわめきに邪魔されてよろめく。

「お前」

「邪魔はさせない、ボクの、為にね」

 深く被っていたフードを捲り上げ、素顔がさらされる。

 緑色の長い髪ととんがった耳、蒼く光る目が淀みを持ってヴェルガを見つめる。

「純血統の……エルフ?」

「ご明察」

 そう言ってエルフはスカートをつまみ、堂々と持ち上げ、股間を晒した。

 そこにいたのは……ピンクの象?

「え……あ……」

 言葉を失っているヴェルガに向かって、エルフは笑い、呪詛を口にした。

「バインド」

 うっすらかかっていた霧が、突如鎖に姿を変え、ヴェルガの身体を締め上げた。

「ぐっ、てめぇ」

「なに? 子供のくせに、濡れちゃった?」

 けらけら笑いながら、エルフは杖を取り、ヴェルガの顔を殴り倒した。

「淫乱だよね、エルフってさ」

 殴り倒したヴェルガの顔を踏み、エルフはそう吐き捨てる。

「てめぇだってエルフだろうが」

「あぁ、そうだよ。君よりもっと濃いね。でも、どうでもいいことだよ」

 エルフはそういうと杖を手にマナを編み始める。

 マナを編む……この世界の言葉で、呪文を構成するための下準備のことを言う。それをなす形に精製する作業、それをマナ編みという。

「知りたいなぁ。高貴なエルフが……どんな愛辱の日々に沈んでいたのかさぁ」

「静かに、黙れ」

「知りたいなぁ、変態宿のベッドの温もりとかさぁ!」

「黙れ!」

 手早く鎖を解き、ヴェルガは弓を拾い上げる。

「お前だってそうだろう、お前だってボクと同じエルフだろ!」

 憤るエルフにヴェルガは舌を出して答える。

「残ねーん、私は、英雄よ」

 その反応に怒りが臨界に達したのかエルフはフードを深くかぶり、杖にマナを纏わせた。

「そう、私は英雄、人間だよ」

「穢らわしいな……人間が……エルフだと」

「汚いのはどっちかな? 人間に愛玩具にされるエルフと人間に混ざったエルフは?」

「どっちが、穢い?」


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